自裁死・西部邁は精神の自立を貫いた

保阪 正康 昭和史研究家
浜崎 洋介 文芸評論家
ライフ ライフスタイル

妻の死、自身の老い、そして現代日本への絶望──

西部邁氏 ©文藝春秋

 保阪 1月21日の朝、西部さんは、多摩川で入水自殺を遂げられました。享年78。その報を最初に知ったのは、その日の編集者からのメールです。とても驚いたのですが、すぐに思うことがありました。

 西部さんは、北海道の同じ中学で僕の1年先輩で、多くの時間を共に過ごしました。北海道出身者は泳げない人が多いのですが、西部さんも泳げなかったはず。すると、入水自殺なら、一歩一歩、歩いて入っていくほかない。「その時、彼は何を思ったんだろう」と考えるとたまらなくなり、その夜は眠れませんでした。

覚悟はしていたものの

 浜崎 僕は、西部先生が創刊され、僕も寄稿してきた雑誌『表現者』の関係者からのメールで知りました。自裁については何度も伺っていたので覚悟はしていたものの、いざ現実になると、どう受け止めるべきか、しばらく上手く言葉が出てきませんでした。2日後にご遺体と対面して徐々に実感が湧いてきて、先生と僕との関係は何だったのか、この死は僕にとって何なのか、と少しずつ考えられるようになりました。

 最後にお会いしたのは昨年末ですが、年明けにも先生から引き継いだ『表現者』のリニューアル創刊(『表現者クライテリオン』)の方針について電話でお話をしました。創刊号は先生にお見せしたかったのですが。

 保阪 10年ほど前から互いに何となく本を送り合うのはやめていたのが、昨年12月に刊行された『保守の真髄』は送ってくれた。末尾に「人工死に瀕するほかない状況で病院死と自裁死のいずれをとるか」とあって「遺書」とも読める。しかも「お前、ここを読め」という感じでページに折り目もついていました。

「いつかはやるだろうな」とは思っていました。ただ、我々の日常の感覚からすれば、「とはいえ、実際はそんな簡単にはできない」と思うものです。しかし、彼はやり遂げた。聞くところによると、前夜、飲みに出かけたそうですね。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2018年03月号

genre : ライフ ライフスタイル