座間9人殺害の衝撃──悲劇は防げなかったのか
2017年10月末に座間市のアパートで9人の切断遺体が発見された事件。逮捕された白石隆浩容疑者(27)は、自殺願望のある女性たちをツイッターで言葉巧みに誘い出し、犯行に及んでいた。
今回の事件では、9人もの遺体を解体し、クーラーボックスに保存していた容疑者の残忍さもさることながら、SNS上で「死にたい」と訴える人々の存在がクローズアップされた。被害に遭ったのは、3人の女子高生を含む10代から20代の若者たちだった。
なぜ、彼女たちはSNSに救いを求めたのか。社会が手を差し伸べるには、どうしたらいいのか。教育評論家の尾木直樹氏(70)、精神科医の岩波明氏(58)、若者とSNSに関する取材を続けるジャーナリストの石川結貴氏(56)が、それぞれの立場から徹底討論した。
尾木 今回の犯行は、若者特有の精神状況につけこんだもので、到底許せるものではありません。
10代から20代にかけての若者が死を意識するのは、決して珍しいことではありません。「人生とは何か」と考えるのが思春期です。実際、僕も22年間の教員生活でたくさんの子どもたちと接する中で、彼らの「死にたい」という言葉を何度も耳にしてきました。だけど、その中に本気で死にたいと思っている子は一人もいませんでした。
石川 報道によれば、白石容疑者も「被害者の中で、本気で死にたいと思っている人はいなかった」と供述しているといいます。
尾木 実際に死を選んだケースでも、本当は生きたいと思っていたはずなのです。2011年に問題となった大津市のいじめ自殺事件では、僕も市の第三者委員会のメンバーとして実態調査にあたりました。この生徒は自宅マンションの14階から飛び降りて命を落としましたが、乗り越えたと思われる手すりには、何度も何度も手すりを触っている形跡があった。そこからは、ギリギリまで生きたいと願い、死ぬことを躊躇していた彼の気持ちがありありと伝わってきました。
石川 今回の事件でも、被害者の方々は本気で死ぬつもりなら一人でできたはずです。自殺の方法なんて、今どきいくらでもネットで調べることができますから。それなのに、わざわざ白石容疑者に会いに行ったのは、リアルな人間関係の中に救いを求めていたからだと思えてなりません。
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source : 文藝春秋 2018年01月号