月の裏側からのミサイル発射を準備している
富坂 中国は、1950年代から96年まで断続的に続いた台湾海峡危機で、アメリカの空母に全く太刀打ちできなかった苦い経験や、湾岸戦争などを経て、人民解放軍を現代の戦争に対応し得る軍隊に作り変えていくという悲願を持っていました。実際、核弾頭が搭載可能な準中距離弾道ミサイルDF-21を2009年に完成させていますが、習近平が国家主席になってから、さらに「近代化」に力を入れています。
最近では、陸・海・空以外の新しい分野でも様々な動きがありますが、どこに注目されていますか。
山下 2015年末に新設された「戦略支援部隊」が担っていると見られるサイバー分野です。ここでの戦いは、平時から行われています。中国はかなりの予算と人材を集中させており、アメリカの分析だとサイバー部隊が約18万人いるそうです。その規模で、24時間365日平時から攻撃しているわけですから、ここは非常に意識しておかないといけません。
富坂 たしかに力を入れていますね。今年中国は「中央軍民融合発展委員会」を作りました。委員長に習近平、副委員長には李克強をはじめとする3人の常務委員が就くという、前代未聞の豪華メンバーで、いま最も注目される組織です。その設立主旨を読むと、「結局、民間の活力を活用しないと次世代の軍事は立ち行かない」ということが書いてあります。つまり、サイバーもこれからさらに民間から“凄腕”を連れてこようとしているわけです。
山下 アメリカも若いハッカーなどを雇っていますね。一方、我が国は、サイバー攻撃に対する国全体の計画や情報収集は内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が行い、防護対策等は各省庁ごとに担当しています。しかし、日本は法制上攻撃ができません。実はサイバーの防護能力というのは攻撃能力に比例します。実戦経験を積まない限りは、防護能力も向上のしようがないのですが……。
新たな3つの軍事領域
伊藤 宇宙分野もこれからの主戦場になっていきます。中国は、2007年1月11日に、衛星攻撃兵器(ASAT)を発射して、気象衛星の破壊実験を成功させました。普通、西側諸国では同じような発想があっても、国際協調を考えて絶対やりません。本当にやってしまうのが、中国らしいところで、「戦争になったら、本当に中国はやるんだな」と世界的に衝撃を持って受け止められました。これは巡航ミサイルや弾道ミサイルの技術にもつながります。
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source : 文藝春秋 2017年11月号