いまやこんなことが目の前で起る時代になったのかとあっけに取られる思いで見守ったのが、二月十三日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で起きた北朝鮮の金正男氏殺害事件。
金正男氏はマレーシア国際空港の自動チェックイン機の前にならんでいるところを、前と後から近寄ってきた二人の女性暗殺者(ベトナム国籍とインドネシア国籍)によって、化学兵器用猛毒VXを素早く(約2秒以内)顔面に塗布された。当初金正男氏は普通に歩いていたが、数十分後に空港クリニックの椅子に座ったまま死んだ。あの白昼のテロ事件からあっという間に二週間がすぎた。その二週間に、このテロの周辺事実、関連事実が次々に明きらかにされていった。マレーシア警察の捜査能力にはなかなかのものがあった。これがたまたま起きた突発的事件ではなく、実は、プロの北朝鮮系テロ集団によって周到に計画され準備され実行に移された国家的テロ行為であったことが、次々にわかってきた。驚くべきことには、テロ集団の指導部が、殺害現場の目と鼻の先のカフェに座って、一部始終を近くから見守っていた。彼らは計画遂行(VXの顔面塗布終了)確認とともに、いち早く現場を離れ、所定の、航空機(数方向に分散)に乗って、マレーシアの国外に出た。そして、幾つかの経由地を経て、二月十七日までにピョンヤンに帰着したと伝えられる。
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source : 文藝春秋 2017年04月号