私はいわばロッキード世代であるから、国会での証人喚問と聞くと、つい過剰に反応(期待)してしまいがちになる。実際ロッキード事件は議会(日米)での証人喚問と二人三脚のようにして解明が進んだ。米上院チャーチ委員会(多国籍企業小委員会)でロッキード社の海外における不正な資金流用問題を議論する中で、突然、児玉誉士夫の名前がロッキード社の日本における秘密代理人として登場し、日本人は皆、唖然とした。
あのちょっと前まで、児玉誉士夫は日本のヤミ社会(ヤクザ、暴力団、右翼、ブラックジャーナリズムなどなど)をあらゆる側面からコントロールする最大の実力者で、怒らせたらなにをするかわからない危険人物とされていた。ジャーナリズムの世界でも彼に言及するときには細心の注意が払われていた。それがあの日を境に、「ロッキード社の秘密代理人」の一言で、だれでも児玉の秘密のヴェールをやすやすと引きはがすことが可能になったのだ。あの日の爽快感は今でも忘れることができない(その直前までその周辺世界のことに注意しながら言及することが度々あった私は、日本では新憲法で言論の自由が保障されているはずなのに、児玉の周辺にだけは言論の不自由空間があると思っていた)。
だが国会の証人喚問の世界のほうはどうだったかというと、日本でもアメリカにならって、ロッキード事件の謎を解明すべく、すぐに国会に関係者を呼んで証人喚問(第一次が一九七六年二月、第二次が同年三月)を行ったが、さっぱり解明は進まなかった。その頃私は週刊文春(一九七六年三月十一日号)の「ロッキード事件研究レポート」にこう書いている。
「第一次証人喚問が大山鳴動ネズミ0匹の田舎芝居だったとするなら、第二次証人喚問では、少くも、ネズミの尻尾ぐらいはつかみかけたといえそうだ」
証人喚問で有益な事実を引きだすというのは、とてもむずかしい。「知りません」「存じません」「記憶にありません」の否認の三つの山をくずすことはそう簡単ではない。ロッキード事件の場合、結局証人たちの自由な発言から何かが引きだされたことはほとんどなかった。結局は強制捜査になって司直の手が伸びてはじめて主要な証人たちは本質的に価値ある情報をしゃべっている。
今回の学校法人森友学園の小学校用地としての国有地格安取得問題も多分同じだろう。森友学園の籠池泰典証人は、幾つかの質問を刑事訴追の恐れがあるからという理由でスキップしたのでそこで追及はストップした。本当のメスを入れるためには、強制捜査が必要なのにそれはなされそうもない。世論調査を見ても、あの国有地の安値叩き売りには、国民の八、九割が納得していない。
あの籠池氏の証人喚問、もともと自民党はそんなことをやるつもりがなかったのに、「首相から百万円の寄付をいただいた」発言を繰り返す籠池氏に首相が激怒し、「籠池を国会に呼べ」の一言で決ったといわれる。
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source : 文藝春秋 2017年05月号