負けないための「知恵」

日本人へ 第167回

塩野 七生 作家・在イタリア
ライフ 社会 国際

 50年も歴史を書いていながらこうも平凡な結論にしか達せないのかと思うとがっかりするが、それは、自らの持てる力を活用できた国だけが勝ち残る、という一事である。

 古代のローマのようにナンバーワンをつづけるケースもあるし、中世・ルネサンス時代のヴェネツィア共和国のように、ナンバーワンにはならなくても強国の一つとして、長年にわたって政治的独立と経済的繁栄を維持しつづけた国もある。ローマもヴェネツィアも、このような状態にあった歳月たるや一千年に及ぶのだから、ハンパな話ではない。

『海の都の物語』という題でヴェネツィア共和国の歴史を書いていた当時、私の頭に去来していたのは、この国は今ならば、国連の安全保障理事会の常任理事国でありつづけたろう、という想いだった。勝てばそれはそれでけっこうだが、負けさえしなければ、長期的には勝つことになるのである。

 それにしても、「自らの持てる力の活用」とは、もしかすると人間にとって最もむずかしい課題であるのかもしれない。だからこそ、歴史に登場した国の多くが、失敗してきたのではないか。

 ちなみに、持てる力とは広い意味の資源だから、天然資源にかぎらず人間や技術や歴史や文化等々のすべてであるのは当り前。つまり、それらすべてを活用する「知恵」の有る無しが鍵、というわけです。

 わが祖国日本に願うのも、この一事である。

 中国を再び追い越すなど、忘れたらよい。国内総生産が世界何位になろうと、そのようなことに気を使う必要はない。大国にふさわしい外交をしたいだって? もともと「和をもって尊しと成す」を国外でも通用すると信じて疑わない日本人に、外交大国になる力があるのか。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
今だけ年額プラン50%OFF!

キャンペーン終了まで時間

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

オススメ! 期間限定

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

450円/月

定価10,800円のところ、
2025/1/6㊊正午まで初年度5,400円
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2017年04月号

genre : ライフ 社会 国際