トランプの「アメリカファースト」をかんたんにいうと、「反グローバリズム(反移民)、自由貿易批判、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)脱退による雇用回復」になる。この主張はじつは、つい最近まで「TPPはアメリカの陰謀で日本にはなにひとつメリットがない」として、アンチ・グローバリズムを叫んでいたひとたちとまったく同じだ。唯一のちがいは、トランプが「TPPはアメリカにとってなにひとついいことがない」として脱退の大統領令に署名したことだ。
このふたつの主張は両立しないから、日本の知識人(と称するひとたち)が間違っているか、トランプが間違っているかのどちらかだが、奇妙なことに、グローバリズムを「悪の帝国」として威勢よく叩いていたひとたちはみんな黙りこくってしまった。
そもそも彼らは、自由貿易はアメリカの陰謀だとして、管理貿易によって「雇用破壊」から日本人を守れと大合唱していた。幸いにも主張を同じくする人物が当のアメリカの大統領になったのだから、WTO(世界貿易機関)を中心とする自由貿易体制は瓦解し、アメリカだけでなく世界じゅうの「グローバリズムによって虐げられた労働者」の権利は回復し、強欲な超富裕層には天罰が下されて、みんなが笑顔で生きられる世の中になるのだろう。
私はこれを経済学版のカルトだと思うのだが、こうした批判は「ネオリベの傲慢」として一蹴されてきた。しかしトランプ政権による壮大な社会実験が始まったことで、アンチ・グローバリズムの正義を振りかざしたひとたちが正しいかどうかは早晩、事実によって証明されることになる。もっとも彼らは記憶力が弱そうなので、その頃には自分がいっていたことは都合よく忘れ、別の気分のいい正義を振り回しているだろうが。
トランプ現象は“オカルト知識人”の欺瞞を暴くだけでなく、リベラリズムの常識を根底から覆した。「トランプは右翼でリベラルとはなんの関係もない」と思うかもしれないが、だったら次のような現象はどう説明できるのだろう。
アメリカでは、「トランプ・デモクラット(トランプの民主党員)」と呼ばれる若者たちが注目を集めている。彼らはSNSでつながった30歳以下のグループで、その多くが民主党の大統領予備選挙で、格差是正の急進的な政策を掲げてヒラリー・クリントンと争った「民主社会主義者」バーニー・サンダースを熱狂的に支持していた。そんな若いリベラルたちが、“オルタナ右翼”とたたかうのではなく、民主党員のままトランプに「転向」したのだ。
リーダー格の学生は、「(トランプ政権の)白人至上主義には同意しない。全ての意見が一致するわけでもない」としつつも、「トランプ減税の恩恵は中間層にも及ぶ可能性がある」「既存メディアや大企業から距離を置くのも好ましい。これは体制への抵抗だ」と述べている(日経新聞2月8日朝刊「(トランプ)支持の民主党員台頭」)。
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source : 文藝春秋 2017年04月号