「経済対話」で妥協するな

特集 トランプは破壊者か革命家か

ライフ 政治 国際
榊原英資氏 ©文藝春秋

 トランプ大統領は、実業家として大きな成功を収めてきた人物だ。だが政界に進出するのは初めてで、軍人になった経験もない、ワシントンの完全なアウトサイダーである。また過激な発言を繰り返し、物議を醸す大統領令に次々と署名して、メディアから強い批判を浴び続けている。例えば「ニューヨーク・タイムズ」は、「経験もなければ、安全保障や世界規模の貿易について学習することへの興味もない」と酷評している(2016年1月30日付)。

 だが私は、トランプ新政権の財政・経済政策は、金融を重視した従来路線を踏襲した、堅実なものになりそうだと考えている。閣僚の顔ぶれを見ると、そのことがよく表れていると思う。

 財務長官のスティーブ・ムニューチンは、ゴールドマン・サックス・グループのパートナーを17年間も務めた人物だ。退職後もヘッジファンドを経営して来た。商務長官のウィルバー・ロスはWLロス&カンパニーの会長で市場では著名な投資家である。2000年に幸福銀行を買収するなど日本での投資経験があり、日米交流団体の会長を務めるなど親日派の1人としても知られる。安全保障や社会保障なども含め総合的な立場から経済政策の立案を行う国家経済会議委員長のゲーリー・コーンは、ゴールドマン・サックス社長兼COOだ。

「狂犬」と呼ばれる元中央軍司令官のジェームズ・マティス国防長官も含め、「ゴールドマン・サックス・軍人内閣」などと揶揄されることもあるが、経済的な側面から見れば、なかなかの顔ぶれと言っていいだろう。

 ビル・クリントン政権の発足時は、アーカンソー州から来た田舎者の集団だった。私は当時大蔵省で国際金融局にいたが、相手方に市場を知る専門家が少なかったことに驚いたものだ。

 一方、トランプ政権はウォール街出身の市場を知り尽くした人物が財政、経済政策を担っている。保護貿易的な動きはある程度とってくるにしても、アメリカ国内への悪影響を考慮し、それほど極端なことはしないだろう。

ドル安を志向する理由

 そのことを踏まえた上で、まずトランプ大統領がこれから取るであろう為替政策と、日本がそれに対してどう対処すれば良いのかを考えてみたい。

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source : 文藝春秋 2017年04月号

genre : ライフ 政治 国際