点数を重視している限り、変革の担い手は生まれない
北城 今日は、久しぶりに濱田さんにお目にかかれると楽しみでした。2009年から6年間東京大学の総長を務められた濱田さんは、歴代の総長のなかでも、改革への方向性を強く打ち出し続けた印象があります。
濱田 ありがとうございます。文部科学省で中央教育審議会委員を務められた北城さんには、総長になる前からずいぶんお世話になりました。経済界の視点からアドバイスをいただきましたし、国際基督教大学(ICU)の理事長でもあるので、大学の現場のこともわかっていらっしゃる。勝手ながら、大学改革という目標を共有する同志のように感じていました。
グローバル化が進み、いまや日本の学生は世界中の大学から進学先を選ぶ時代になっています。東大はその選択に耐えうるかどうかと考えたとき、私は非常に強い危機感を抱いてきました。何より、これまでのままでは、未来に生きる学生たちが潜在力を発揮できなくて可哀そうです。目指したのは国際水準です。日本の多くの大学は、大教室で先生が学生相手に講義をするという一方通行。教授たちが「学生は勉強しない」とぼやいている光景も、なかなか変わりませんでした。学生たちも心得たもので、試験の前には効率よく準備をして点数を稼ぎ、本格的な勉強は社会に出てからでいいと思っている場合が少なくない。大学は社会に出る前の通過点に過ぎず、存在意義がはっきりしないのです。欧米の大学との大きな差は、ここにあるのではないでしょうか。
北城 日本の親は初等教育や受験には熱心ですが、子どもが大学に入ってしまえば、ほとんど関心を失ってしまいますね。東大に入ったら御の字で、親も学生も、将来は保証されたも同然と安心するのでしょう。濱田さんはそこに一石を投じ、就任早々、「タフな東大生を作る」という大きなメッセージを掲げられた。
突っ走れなかった秋入学
濱田 悲しいことに、東大の卒業生は「大学に育ててもらった」という意識がたいへん低い(笑)。有力私大に比べて、同窓会の組織化が進まなかった一因でもあります。自分が東大に育てられたと実感してもらうためには、手間を惜しまず学生に手をかけるしかありません。学生たちの血肉になるような経験を在学中にしてもらおうと、留学の機会を増やし、少人数による双方向の授業の導入など授業の密度を高め、英語で授業するカリキュラムも大幅に増やしたいと提案しました。
北城 なかでも、2011年夏頃に提案した、秋入学へ全面移行のインパクトは大きかったですね。
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source : 文藝春秋 2017年03月号