事故分析の専門家が明かす8つの「心得」
高齢者ドライバーによる特異な事故が相次いだことから、メディアが高齢者の運転事故防止について、盛んに報じるようになった。運転免許証の自主返納をする高齢者が増加していることが、好ましい行為として報道されると(もちろんそれはそれで歓迎すべきことであるにしても)、70歳台、80歳台でも現役で働き、仕事の性質などからクルマを使わなければならない人たちにとっては、バッシングを受けているような肩身の狭い思いをさせられる。
実は、私自身、昨年(2016年)6月に80歳になったが、作家として3・11東日本大震災の被災地や東京電力福島第一原発の被害状況の継続的な取材やボランティア活動をはじめ、様々な取材活動を続けていて、そのために自分のクルマや遠方の地でのレンタカーを、日常的に運転している。年間走行キロは7000〜8000キロになっている。都市部なら新幹線や航空便で出かけ、タクシーを利用すればよいが、被災地などは交通の便が悪いところが多いので、クルマを使わざるを得ないのだ。
高齢者のドライバーによる事故が報じられると、身近な人たちから、「そろそろ運転をやめなさいよ」と忠告されるが、今、クルマの運転をやめるのは、ライフワークの仕事を放棄することになるので、なかなか「はい、やめます」とは言えない。「そんなのは、あなたの都合でしょう。事故が起きたらどう責任を取るの?」と言われれば、返す言葉がない。
問題は、高齢者の運転は是か非かという二者択一の枠組みで捉える思考パターンにあるのだと、私は思う。白か黒かで結論を出すのは、確かにわかりやすい。特に第三者が議論する時には、そういう議論に陥りやすい。しかし、当事者の立場になると、問題は個別性が強く、一概に白か黒かで仕分けられないことがわかってくる。ちなみに、アメリカにおけるトランプ人気は、不法移民問題などについて、アメリカ(特に白人階層)にとって利益になるのかならないのかという、ナショナリズム色の強い二者択一の問いかけが功を奏したものと言えるだろう。しかし、そういう思考パターンは、時代を危険な方向に流していくおそれがあることを歴史は示している。
相次ぐ病院への突入
ともあれ、最近の高齢者による衝撃的な事故例を見てみよう。
11月10日、栃木県下野市の自治医大付属病院で、駐車場から出て来た84歳の男性Kの運転する乗用車が、急発進するような形で、正面玄関付近に突っ込み、玄関脇のベンチに座っていた女性が死亡、車を避けようとした女性2人も巻き込まれて重軽傷を負った。男性Kは内科で診療を受けて帰るところで、自分も怪我をした。原因は男性Kが誤ってアクセルを踏んだためである可能性が高い。
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source : 文藝春秋 2017年02月号