極端な現場主義が生んだ“特殊な組織”の内実
2015年12月に電通の新入社員だった高橋まつりさんが社宅で自ら命を絶ち、その死が16年9月に長時間労働による過労死として労災認定された。10月に電通の本社と3支社に東京労働局などの立ち入り調査があり、11月には労働基準法違反の疑いで強制捜査に切り替わった。
こうした一連の報道から私が思ったのは、電通はある部分において「百年一日のごとく、何も変わっていない」ということだ。
私は電通に34年間勤め、06年に辞めたときは、本社の常務執行役員と電通総研の社長を兼務していた。90年代には経営計画室長を務め、創業100周年となる01年の株式上場を目指して、上場準備室長を兼務した時期もある。財務をはじめ経営管理を見直し、上場企業らしい社内体制を築くための経営改革案をまとめた。
その経験から私には、今回の問題を引き起こした原因や背景について思い当たる節がいくつもある。コーポレート・ガバナンスが機能していないこと、とりわけ労務管理に問題が多いことは当時から認識していた。会社を辞めて10年も経てば、通常は現在の社内状況がわからなくて当然だが、今回の報道を見る限り、電通の企業体質は大きく変わっていない。問題の根はそれだけ深いのだ。
私は、電通を辞めた翌年に『広告会社は変われるか』(ダイヤモンド社)を上梓した。この本で、広告会社は2010年代に、経営管理の抜本的な見直しを迫られると予測した。従来型の経営管理では、ネット広告のビジネスに対応できないからだ。
それから10年後、まさにそのネット広告の部署で長時間労働に苦しんだ高橋さんが、自ら死を選んでしまった。さらに、高橋さんは東大の後輩に当たる。今回の事件は、とても他人事とは思えない。それで筆を執らずにはいられなかった。
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source : 文藝春秋 2017年01月号