患者に向き合えない医師はイチから出直せ
最近、医療に関して身近に起こったことをいくつか挙げてみる。
ある知人の大学教授は、大腸がんと診断されたが、すでに肝臓や腹膜にも転移しており、抗がん剤による化学療法しかないと言われた。しかし体力や副作用を考えると、抗がん剤は無理だと考えて断った。すると医者は、パソコンの画面を見たまま「あと1年ですね」と言い放った。
またある年配の女性は、体がだるくてめまいがするので病院で診察を受けた。血液検査やCTを撮った結果、「どこにも異常はありません。年のせいでしょう」と言われたという。そのとき目の前の医者がロボットに見えたそうだ。
私にも似たような経験がある。尿管結石のあまりの痛さに救急車で病院に運ばれた。その痛さはとても言葉で表現できるものではなく、私はストレッチャーの上でのたうち回っていた。だが医師はパソコンの画面を見たまま、「痛みは10段階のうち何段階ですか」と尋ねてきた。
これはほんの一例に過ぎず、医者に違和感を覚えた経験がある方も多いのではないだろうか。医療とは「人間を診る」ことであって、データを分析することではない。昔は医者の前に座ると、まず素手による触診があったが、最近はそんな医者も少なくなった。あらゆることが数値化、デジタル化できると錯覚しているのかもしれない。
医療にはEBM(エビデンス=科学的根拠に基づく医療)とNBM(物語に基づく医療)があり、後者は病気について「患者が語る物語」を医師と共有するという意味で、両者は補完関係にある。ところが日本ではエビデンスばかりが重視されてきたように思える。国立大学の医学部で教養課程が2年から1年に短縮される動きが目立ち、人間性を育む機会が軽視されるなど、NBMを重視する世界と逆行する動きが目立っているのも不気味だ。
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source : 文藝春秋 2017年01月号