幻想の大国を恐れるな

大特集 厄介な隣人の「真実」が見えてきた 日本よ、中国を超克せよ

エマニュエル・トッド 歴史人口学者・家族人類学者
ライフ 社会 国際 中国

中国は経済的にも軍事的にも「帝国」ではない

エマニュエル・トッド氏 ©文藝春秋

 ここ最近の株価の下落や経済成長率の鈍化などを見て、「中国の危機」を言い立てる人が急に増えてきました。しかし私は、中国が桁外れの経済成長を続け、「このまま行けば世界トップの国になるかもしれない」などと言われていた時代から、「この国は非常に不安定で、問題の多い国家だ」と常に指摘してきました。中国はずっと以前から不安定化に向かって走っており、いまは危機の兆候が顕在化してきたと見ています。

 はじめに断っておきますが、私は中国の専門家ではありません。そして、現在の中国が完全に悲観的な状況にあるとも考えていません。中国がここ三十年間で急速に、しかも途轍もない経済成長を遂げ、豊かになったのも事実です。このことを前提にして、中国の現状を分析し、中国の何が問題で、隣国である日本はどのようにこの大国と向き合うべきなのかについて、論じていきたいと思います。

 最近よく「中国は現代における『帝国』なのか」という質問を受けます。「現代における『帝国』」とは、経済的にも政治的にもヨーロッパ大陸のコントロール権を握る、いまのドイツのような存在です。

 この質問に対する私の答えはもちろん、ノーです。

 経済的に見ても政治的に見ても帝国ではないと言い切ることができますが、まずは経済的な側面から見ていきましょう。中国の経済は確かに急成長を遂げてきました。しかし、それは自立的に達成したものではまったくありません。アメリカやヨーロッパ、そして日本の資本家たちが中国にたくさん投資し、そしてまた中国からたくさん輸入する――このモデルを作って、中国の最高指導者たちに受け入れさせてきた。これこそが、中国の経済成長の実態です。

 つまり、この経済的な繁栄は、中国の指導者たちが有益な決断を主体的に下した結果、得られたものではなく、経済的な力関係の中で、西洋の資本主義諸国から押し付けられたものを受け入れたからこそ得られたものなのです。一見、中国の最高指導者たちは賢そうに見えますが、実はそう賢くもありません。彼らの進路を決めてきたのは、中国の膨大な人口を安価な労働力として「使ってきた」西洋のグローバル企業なのです。

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source : 文藝春秋 2015年10月号

genre : ライフ 社会 国際 中国