『絶歌』が出版された日である。あるメディアからコメントを求められたが、私は逆に「遺族の了解を得てますか」と尋ねた。「無断で出したようです」と聞き、私は読むつもりはない旨を伝えてこう言った。
「自分が救われたいから書いたのでは遺族は納得できないでしょう。二人の子供を惨殺したうえ、さらに今度は被害者家族の心まで殺そうというんですか」
この気持ちはいまも変わらない。
ところが、出版を肯定する人たちの中から、こんな意見が出ているという。神戸連続児童殺傷事件は社会が共有すべき事件であることを考えると、あの事件の全貌をとらえるためにも評価すべきだ、と。
当時の日本人にとってあれほどおぞましい事件はなかった。ほとんどの国民はあんな事件は二度と起こしてほしくないと思ったはずである。
それにはどうすればいいか。確たる答などあるはずもないが、少なくとも、十四歳の少年を、あの異常な事件に向かわせた背景を知っておくべきだろう。しかし、少年法の壁に阻まれて、いまだに納得ができる説明がなされたとは思えない。
たとえば、一九九七年十月十七日に神戸家庭裁判所が公表した『少年の処分決定要旨』にこんな記述がある。
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source : 文藝春秋 2015年08月号