認知症になってもコミュニケーションはできる。一年かけて認知症に悩む本人たちの話を聞いた
私を応接間に通すと、三枝斎子さん(79)は私のために珈琲を淹れる準備を始めた。やがて茶菓子と珈琲が運ばれてくる。ところが、話を始めたところではたと困ってしまった。例えばこんな会話である。
「(結婚して)東京に出てきてから楽しかったことはなんですか?」
「お店をアレして、お父さんがアレして、一所懸命アレしました。ほんとに夢中でしたね」
聞き取れないほど小さな声だった。斎子さんが結婚して山梨から東京に出てきたのは東京オリンピックの前。それ以来、ミニスーパーをしていた夫を手伝うため、休むことなく働いたという。ご主人の啓治さん(81)から説明を聞かなければほとんど理解できない。ところが、そうでない場面もある。
「デイサービスは楽しいですか?」
「私は汚れているのが嫌ですから、すぐ雑巾で拭くでしょう。すると向こうの先生たちが『斎子さん、ありがとう』と言ってくれるから自分もその気になっちゃって。帰るときは『また来てね』って言われるんですよ」
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source : 文藝春秋 2015年08月号