ハン・ドンイル著、本村凌二監訳、岡崎暢子訳「教養としての『ラテン語の授業』」

文藝春秋BOOK倶楽部

池上 彰 ジャーナリスト
エンタメ 国際 読書

世界的ベストセラーが日本上陸

 題名を見ると身構えてしまう人がいるかもしれません。なにせ「ラテン語の授業」ですから。

 でも、大丈夫。いまブームになっている感のあるリベラルアーツの原点である古代ローマの言葉が、いかに世界の教養のもとになっているかを知るエッセイ集です。

ハン・ドンイル著 本村凌二監訳・岡崎暢子訳『教養としての「ラテン語の授業」 古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』ダイヤモンド社 1980円(税込)

 著者は韓国ソウルの大学でラテン語講座を持っていました。そこでの経験を、著者は古代ローマの哲学者セネカの言葉を引用して表現します。〈人は教えている間に、学ぶ Homines, dum docent, discunt〉

 ラテン語は、知らないうちに私たちの言葉になっています。たとえばユビキタスやビジョン、アウディ、アクア、ステラなど。いずれもラテン語由来なのです。大学のモットーなどにもラテン語はよく使われます。たとえばアメリカの名門ハーバード大学のモットーは「Veritas」(ヴェリタスと発音。真実のこと)。

 なぜラテン語はもてはやされるのか。〈ラテン語で述べられた(語られた)ものは何でも高尚に見える〉からだというのです。

 ローマ帝国やカトリックの神学校で学生たちが学んでいた学問は、「文法学、修辞学、論理学」の3学と「音楽、算術、幾何学、天文学」の4科でした。これが「リベラルアーツ7科」として伝わっています。

 古代ローマは地中海沿岸の国々を次々に属州としていましたが、吸収された国の人々は、ローマに支配されたとは感じていなかったといいます。それは、ラテン語が「相手を尊重し認める」という言語だからだというのです。

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source : 文藝春秋 2022年12月号

genre : エンタメ 国際 読書