「このままでは国産エンタメが消える」

有働由美子のマイフェアパーソン 第46回

堀 義貴 ホリプログループ会長
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news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、ホリプログループ会長の堀義貴さんです。

和田アキ子とは50年以上の付き合い

 有働 今日は会社にお邪魔しております。先ほど社屋の前で、和田アキ子さんにばったり会ったんです。ここはホリプロなんだなと実感しました。

  地下にレッスンスタジオがあるので、テレビで歌う時など彼女はよく来るんです。

 有働 堀さんは和田さんのことを何とお呼びになっているんですか?

  「アコさん」です。

 有働 アッコさんからは?

  「若」ですね(笑)。

 有働 堀さんのお父上でホリプロ創業者の威夫さんの時代から所属されているんですものね。

  もう50年以上の付き合いになります。僕が社長になった時にホリプロを辞めると言っていたのを「そう言わずにやりましょうよ」と。でも僕を社長とは呼びたくないから「若」と呼ぶとアコさんが勝手に決めたんです。

 有働 そのアッコさんが「会社の玄関にハリー・ポッターがおるんや」と教えてくれて。何のことだろうと思って社屋に入ったら、ハリー・ポッターのコスプレをした堀さんのパネルが飾ってありました。

  「ホリー・ポッター」です。

 有働 ……ごめんなさい、そのダジャレは思いつきもしなかった!

  社員にやらされたんです。

 有働 やらされたんですか?

  喜んでやる人はいませんよ(笑)。

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堀さんと有働さん
衣装協力:ヨシエ イナバ/ジョージ ジェンセン

日本映画10本分の制作費

 有働 会長の一存で設置したわけではないぞと(笑)。ホリプロさんが主催する舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が7月に開幕して、無期限ロングラン公演の最中です。私はまさに昨日拝見したばかりでして。小説の最終巻から19年後の世界で主人公のハリー・ポッターは父親になっている。そのハリーを、藤原竜也さん、石丸幹二さん、向井理さんが回替わりで演じ、ホリプロさん所属の豪華キャストが様々なキャラクターを熱演されています。榊原郁恵さんがホグワーツ魔法魔術学校のマクゴナガル校長なんですね。

  いかがでしたか。

 有働 最初から最後まで驚きの連続で、はやくもう一度観たい。舞台装置にキャストの動き、物語の展開と、質量ともにすごく贅沢で。2016年にロンドンで開幕して大変な話題となり、東京公演は世界7都市目、アジア初公演になるそうですが、日本で舞台化を実現するのは大変だったんじゃないですか。

  正直言うと、僕は小説「ハリー・ポッター」シリーズを詳しく知らなかったんです。映画も、テレビの再放送を部分的に観た程度。みんなが観ているから自分はそこまで観なくてもいいやと。

 有働 エーッ!?

  だから最初はやる気なんか一切なかったんですけど、たまたま今回の共同主催に入っているイギリスの会社から声をかけてもらったんです。ただ、やるならロングランでないと資金が回収できない。うちは自前の劇場を持っていないので断ることも考えたんですけど、幸いTBSさんが赤坂の劇場を無期限で貸してくれることになって成立しました。

 有働 舞台の豪華さからして、他の海外ミュージカルと比べても何倍もの費用になりそうですね。

  日本映画で言ったら、大作を10本作れます。何年がかりで回収できるか試算し数々の問題をなんとかクリアして、イギリスで調印式をしたのが2020年2月でした。

 有働 まさにコロナ禍に入ろうというタイミングで。

  イギリス側と会議するにしても行き来できないのでオンラインだったり、オーディションも衣装合わせも難航したり、何より海外スタッフが稽古のスタートまで入国できなかった。初日が開いてからも感染者が出れば止まるし、コロナの影響でずっと綱渡りですよ。これが続くと回収に何年かかるんだと心配にはなりますけど、連日大入りなのでやってよかったと思います。

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舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』公演中

人力で魔法世界を再現

 有働 拝見して驚いたのは、舞台上で次々と繰り出される魔法が一体どうなっているのだろうと。どんな機械仕掛けか、解き明かしたくなりました。

  守秘義務があって……でも、最近の演劇って映像技術を駆使して派手になっているんですけど、この舞台の魔法はむしろ人力でやっていることがほとんどです。

 有働 えっ、信じられない。

  今の世界の演劇で、生身の人間ができる舞台芸術の集大成です。キャスト全員が緻密な演出によって動いています。少しでもタイミングがズレると、魔法世界を再現できない。一人でも病気やケガなどで欠ければ公演が困難になります。

 有働 スタッフ全般に言えるでしょうけど、キャストも相当な稽古が必要ですよね。

  日本オリジナルキャストのオーディションを1年近くしたんですけど、体幹の弱い人は序盤に落とされるし、リズム感のない人も落とされていましたね。いざ稽古になっても、まずキャスト全員で1時間ほどトレーニングをするんですよ。(藤原)竜也でさえもヘトヘトになるから「(榊原)郁恵さんなんか大丈夫かね」とか言っていました(笑)。そうやって稽古を重ねないとあの舞台は成立しないんです。

 有働 ホリプロとして無期限ロングラン公演は初めてだとか。そこまでの覚悟を決めたのは作品の魅力なんでしょうか。

  ハリー・ポッターを知らなかった僕がニューヨークで最初に見た時、「これを日本に持ってきたら日本のお客さんも驚くだろうな」と思いました。一緒に観た社員と「すげえな」と。アジアで初めて公演するチャンスをいただいたことも意気に感じましたね。先日、オリジナル版のイギリス人演出家が来日して。気難しい人というので、戦々恐々としていたら「日本のキャストが一番いい」とべた褒めしてくれたんです。

 有働 現時点でそのくらい完成度が高いと。

  日本の演劇界が世界と伍して捨てたものじゃないとわかったのは収穫でしたね。

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左から藤原竜也、福山康平 ©渡部孝弘

世界で稼ぐために

 有働 堀さんは2002年、36歳のときにホリプロ社長に。そして今年6月に退任しホリプログループ会長に着任されました。これまで『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』や『ハリー・ポッターと呪いの子』のように舞台作品の国内誘致にご尽力されてきました。最近では自社制作舞台の海外進出に力を入れているそうですね。

  これまで日本のエンターテインメント業界は、99.9%が地産地消だったんです。でも今後、見る人、出る人、作る人のいずれも減っていく中で、よその国にお金を払っている場合じゃない。他の国で稼げるようにならないと、日本のエンターテインメントはシュリンクしていく。相当な危機感を持たないといけない状況です。いつも政治家や役所の人に言うんですけど、このまま行くと30年後にはゴールデンタイムのテレビ番組は「ああ、今日も韓国のドラマか」「日本のドラマは久しぶりだね」というふうになりますよ。作り手がいなくなり、海外から買ってくるほうが安あがりになるので。

 有働 今や、韓国のドラマや映画は世界中で観られています。

  ホリプロが世界で稼ぐことを考えたとき、テレビ番組を制作していても著作権はテレビ局のものです。演劇ならグローバルライツを持てるなと。それで最初に海外展開を視野に作った舞台が『デスノート THE MUSICAL』(2015)でした。

 有働 2006年に藤原竜也さん主演で映画化された作品ですね。

  映画になる前から原作マンガを僕は読んでいたんです。うちに所属する俳優の香椎由宇がマンガ好きで、オススメを聞いた時に勧めてくれて。だから映画化の話があった時にすぐ乗ることができました。

 有働 主人公のライバル役を演じたのが、同じくホリプロの松山ケンイチさん。大ブレイクされて。

  松山以外の配役だったら製作委員会から抜けてやろう、ぐらいの気持ちでした。この作品の前に、映画『男たちの大和 YAMATO』で角川春樹さんに松山を少年兵役に抜擢してもらって注目を受けはじめた頃でした。

 有働 『デスノート』は、マンガ、映画ともに海外でも人気の作品だと聞きます。

  竜也と舞台の仕事で海外へ行くと、現地の人から『デスノート』のムービースターとして認知されているんです。ロンドンのパブでビールを飲んでいたら声をかけられましたし、ニューヨークの劇場では、出待ちの若者が脚に『デスノート』のキャラクターのタトゥーをしている。この作品なら海外で勝負できると思いましたね。舞台化でアメリカの著名な作曲家のフランク・ワイルドホーンに作曲をお願いしたら、彼は作品のことを知らなかった。でも、彼の息子が「パパ、他の仕事は断ってもこれはやるべきだ」と言ってくれ、引き受けてくれたんです。

 有働 今年6月には韓国でも開演して、大成功を収めているとか。最終的な目標は、ホリプロの『デスノート』を、『ハリー・ポッター』のようにブロードウェイをはじめ世界中で上演することですか。

  そこを目指してやっています。韓国では今年は4カ月半ぐらいロングランをやっていて、今シーズン一番のヒットなんです。香椎由宇との会話から舞台化までの出来事が面白いように繋がっていくと、それ自体がストーリーとなってうまくいくものなんですよ。

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左から中別府葵、エハラマサヒロ、向井理 ©渡部孝弘

『生きる』は英語圏向け

 有働 そういった舞台裏のアナザーストーリーが大事だと。ホリプロ制作のオリジナル作品は他にも黒澤明監督の映画『生きる』の舞台化に、『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』『東京ラブストーリー』(11月から公演)など、一見毛色が全然違う感じですけど……。

  『デスノート』『生きる』は英語圏向け、『北斗の拳』『東京ラブストーリー』はアジア圏向けです。黒澤明監督の『生きる』は、『デスノート』の音楽監督のジェイソン・ハウランドら海外の舞台関係者と雑談していたときにみんなこぞって好きな映画に挙げていたんです。しかも「ⅠKIRU」と原題まで知っている。アメリカの芸術学校では必ず通る作品らしくて。そんな折、社員から『デスノート』の次の海外展開に『生きる』はどうかと、提案があって腑に落ちたわけです。

 有働 なるほど。たしかに『東京ラブストーリー』を、アメリカ人が理解するのは難しいでしょうね。

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source : 文藝春秋 2022年11月号

genre : エンタメ 芸能 テレビ・ラジオ 映画