「終活」とは、死をビジネスにすることにほかならない。
稀代の碩学が本来の日本人の死生観を語り尽くす
編集部から「終活」について論じてくれと頼まれた。終活とは、人生の「終了活動」「終末活動」であろうか、自分の死に備えて、葬式や墓、財産分与の準備を怠りなく行うことを指すようだ。そのための指南書も多く出ているらしい。そう言われて改めて考えてみると、私は自分の葬式や埋葬の方法、相続のことなどにほとんど関心がないことに気づいた。
数え年で九十歳になったが、今まで生きてわかったのは、世の中何が起こるかわからないということである。死ぬ準備をしても、あと十年生きるかもしれないし、明日コロッと死ぬかもしれない。人生は思いがけないことが起こるから楽しい。
私は大正十四年生まれだが、同年代の三島由紀夫や吉本隆明はすでに亡くなった。しかし、これまで三度もガンを患った私は、このとおりピンピンしている。
体自体はいたって健康で、医者からは「好きなことをおやりください。それが体にもよく、老化をふせぐことになります」と言われるので、好きな本を読み、ものを考え、ものを書くことだけをして暮らしている。
講演の依頼や、役職に就いて欲しいと頼まれることもあるが、義理を欠くことを承知で、いまはほとんど断って、好きな仕事に没頭している。最近は、数年来考えてきた親鸞についての新しい仮説を「芸術新潮」に発表した。これが秋に本にまとまれば、次はいよいよ長年のテーマである「人類哲学」に取り組むつもりだ。それにはおそらく十年はかかるだろう。私にはまだやりたいことがたくさんあり、人生の終わり方を考えている暇などないのだ。
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source : 文藝春秋 2014年05月号