ついに創刊

菊池寛アンド・カンパニー 第13回

鹿島 茂 フランス文学者
エンタメ メディア 読書 歴史

その伏線となる2つの事件があった

 大正9年は『真珠夫人』の大成功で菊池寛が富と名声を得た年として記憶されるが、詳細年譜をひもとくと、その前後に大正11年暮れの「文藝春秋」創刊という菊池寛最大の「事件」の伏線となるような2つの「小事件」が目に入ってくる。

 1つは大正8年8月18日から「大阪毎日新聞」に中編「友と友の間」を連載したことである。なぜ「事件」かというと、それはこの作品が第四次「新思潮」の1つの総括となっているからだ。つまり、「友と友の間」は、後に久米正雄の小説『破船』にちなんで「破船」事件と呼ばれるようになった久米正雄と松岡譲という同人同士の恋の鞘当てを客観的な観察者として描いた作品であり、「第一次菊池寛 アンド・カンパニー」たる第四次「新思潮」の解体の過程が記されているのだ。

左から 久米正雄、松岡譲、芥川龍之介、成瀬正一(第四次『新思潮』発刊時 大正5年) ©文藝春秋

 もう1つは『真珠夫人』連載中の大正9年の暮れに川端康成が小石川中富坂町七番地の菊池寛邸を訪れ、「新思潮」継承刊の許可を得ようとしたことだ。「新思潮」は東大文科在学生が主体となって出す同人誌だが、名称を継承するには前の「新思潮」同人の承認を得る必要があった。川端康成は、第五次「新思潮」同人ばかりか菊池寛らの第四次「新思潮」同人の許可も必要と判断したのだ。

「私たちが『新思潮』の継承発刊の了解をもとめると、初対面であつたにもかかはらず、なにもたづねないで、到つて無造作に承諾を与へ、好意を見せてくれた上、『芥川や久米なんかには、僕から話しておいてやるよ。』と言った。こちらはまだ大学の一年生だし、緊張と不安をいだいて門をたたいたのだから、あつけないほどで、うれしかつた。」(川端康成『菊池寛文学全集 第九巻』解説)

 ようするに、『真珠夫人』の連載を挟みこむようなかたちで、「菊池寛 アンド・カンパニー」は、第四次「新思潮」同人の実質的解体を経て第六次「新思潮」同人主体のグループに変容し、いわば「拡大版菊池寛 アンド・カンパニー」ともいうべきものが誕生して、これが大正11年末の「文藝春秋」の創刊へとつながっていったのである。

「破船」事件のあらまし

 というわけで、まず、「第一次菊池寛 アンド・カンパニー」の解体が描かれた「友と友の間」に依りつつ、「破船」事件のあらましを記してみたい。

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source : 文藝春秋 2023年1月号

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