尖閣の実効支配を確立せよ

この国をいかに守るか

山田 吉彦 東海大学海洋学部教授
ニュース 社会
山田吉彦氏

 尖閣諸島は紛れもない日本の領土である。1895年、日本国政府は約10年間にわたる十分な調査の結果、どこの国の管轄権にも属さないことを確認の上、沖縄県に編入した。現在は沖縄県石垣市に含まれる。この日本固有の領土が、近年、中国から侵略の危機に晒されている。

 尖閣は、台湾に近い東シナ海の要衝である。周辺海域の安定は、アジアの平和に直結している。かつて、中国は東シナ海の海底資源の獲得を目論み尖閣に触手を伸ばした。現在は、台湾への侵攻のため東シナ海の制海権の取得を目指し、その拠点となる尖閣への侵攻を進めている。

 中国の海上警備機関である中国海警局は警備船(海警船)を使い、領海侵入を繰り返している。2018年、海警局は人民武装警察部隊に編入され、中央軍事委員会の指導下に入り、軍隊と一体となり行動する組織となった。海警局のトップは、海軍出身者であり、実質的に第二の海軍となっている。2022年11月に侵入した海警船は、軍艦並みの76ミリ砲を搭載していた。海上保安庁の最大級巡視船「あきつしま」の搭載砲は10ミリ砲である。もはや、海保に太刀打ちのできる相手ではない。また、同年7月には、中国の軍艦が尖閣周辺の接続水域内に侵入し、時を合わせロシア軍艦も同海域に侵入した。中国軍艦は、その後1週間にわたり留まった。同年4月には、石垣島、与那国島の周辺海域の上空を中国の電子戦機が飛行。電子戦機は、電波情報の収集、電波妨害などを仕掛け、レーダーやGPS、ミサイルの迎撃システムなどを麻痺させる機能を持っている。この時の電子戦機の飛行は、日本の電子戦への対応能力を探ることが目的だったようだ。中国の脅威は、海のみならず空からも押し寄せているのだ。

 一方で、尖閣の警備体制は、海上保安庁に依存している。中国海警局は軍隊同様の装備を持ち、さらに、海軍、空軍が迫っている。日本の海上保安体制は、警備だけではない島嶼防衛の視点へと転換しなければならない時期にきている。海上保安庁法25条では、「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定されている。中国の軍事侵攻に対処する上で、海保と自衛隊の連携の足枷となるのが、この海保法25条だ。国会議員の中でも海保法改正や装備強化の声が上がる。だが、むしろ有効なのは、海保の沿岸警備機能と自衛隊の防衛機能を併せ持つ日本型「沿岸警備隊」の創設であろう。同時に、石垣島の陸上自衛隊基地建設をはじめ、南西諸島の防衛機能を充実させれば、中国への抑止効果も高めることができる。

尖閣諸島 ©文藝春秋

中国の台湾侵攻を助長

 また、中国の侵攻に歯止めをかけるためには、国際社会の理解が肝要だ。それにはまず、尖閣の実効支配を確立し、日本の施政権を明確に示すこと。国連海洋法条約は、排他的経済水域の基点となる島に「人間の居住又は独自の経済的生活」を求めている。島に人が住むか、独自の経済活動を行う必要がある。

 貴重な生態系を有する尖閣において、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)に即した施策を打ち出すことで、国内外の理解を促すのも一計だ。東シナ海の海洋環境、水産資源の保護を提唱する。具体的には、周辺海域を海洋保護区に指定し、管理拠点施設を尖閣に設置するのである。

 これらの施策を実現するためには、国民の理解が欠かせない。そのためには、まず、尖閣の詳細な調査を行い、国民に映像も含めた的確な情報を伝えることである。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会