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本庶 佑 京都大学特別教授
ライフ 社会 教育
本庶佑氏 ©時事通信社

 2022年8月、文部科学省の科学技術・学術政策研究所による、ある調査結果が話題となりました。調査では、2018〜20年の3年間で科学誌に掲載された自然科学の論文数を分析。注目度の高さを示す「Top10%補正論文数」において、日本は世界12位に転落しました。

 ただ、日本の科学研究の衰退は今に始まったことではありません。大元を辿ると2000年代初頭、戦後最大の不況が日本を襲ったことで、多くの企業が自社内の研究所を続々と閉鎖しました。彼らは自社での研究開発を諦め、もっぱらアウトソーシングに頼るようになった。その後の劣化は言うまでもないでしょう。

 現在では、大学の研究現場も窮地に追い込まれています。勿論、研究費の総額は大問題ですが、私が特に問題視しているのは、「研究費の配分システム」です。現状のシステムでは、研究者に必要な額が届けられるようにはなっていません。多くの人の関心は研究費の予算総額に向きがちですが、本当に重要なのは「お金の配り方」なのです。

 科研費(科学研究費助成事業)の配分方法について説明しましょう。科研費は毎年全国の研究者から公募をおこない、研究資金の援助をおこなっていますが、その枠組みは「特別推進研究」「基盤研究(S・A・B・C)」「挑戦的研究」「若手研究」と非常に細かく分けられています。人文・社会系、理工系、生物系……全ての分野でこの区分けが採用されており、例えば、基盤研究(C)の交付金額は、3〜5年間で500万円以下と設定されています。

 この画一的な区分けは、文系分野では通用するのでしょうが、理系分野では大きな歪みを生み出しています。なぜなら理系分野の研究は、文系分野の研究と比べてかかる費用が桁違いに大きいからです。一つのプロジェクトを遂行するために、年間3000万〜5000万円のお金が必要になることはザラですし、結果が出るまで数年は続けなければならない。正直、100万円程度をもらっても、事務経費に消えておしまいです。プロジェクトは諦めざるを得ません。

 細かく研究費を設定するのは、出来るだけ多くの研究者にお金が行き渡るように“配慮”しているからです。助成事業をおこなう日本学術振興会は、応募件数に対して、採択率が30%程度になるよう調整しています。限られた人だけに研究費を交付すると、批判が噴出しかねず、採択率を異常に気にしているのです。この配慮こそが無意味で、例えるならば、1億円のお金を1億人にバラまいているようなもの。これではドブに捨てているのと同じです。採択率を10%以下に下げてでも、一つの研究に数千万円レベルを交付できるようにするのが適切でしょう。

 一方で、どのようにして選ばれたか分からないプロジェクトに巨額の資金が投入され、そのほとんどが十分な成果を出さずに終了していることも問題です。どこにどれだけのお金が必要なのかは、現場をよく知る専門家しか判断できません。文系理系問わず画一的な仕組みをやめ、各専門分野に相応しい配分方法を、研究者の意見を取り入れて議論していくべきです。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ライフ 社会 教育