昭和歌謡の黄金時代を語ろう

「ひと夏の経験」「どうにもとまらない」「ペッパー警部」……

都倉 俊一 文化庁長官
エンタメ 芸能 音楽

レコーディングの最中に、百恵の恋に気付きました

 昨年末の紅白歌合戦で『蛍の光』の指揮を務めるのも6年目になりました。何度やっても生放送ならではの緊張感は消えません。番組が23時45分ちょうどに終わるようにしなければいけないので、残り時間を意識しながら、関係者全員緊張して取り組んでいます。

 近年の紅白については、内容をめぐって様々な議論を呼んでいるようですが、僕としてはこの番組の魅力は“偉大なるマンネリ”にあると思っています。かつてのように家族全員が一つのテレビを囲んで、歌声に聴き入る……そんな時代ではなくなったのかもしれません。それでも、いまだに“紅白歌手”という言葉があり、紅白出場が歌い手に箔をつけることにつながっている。それだけの権威と影響力のある番組には変わりはないのです。「ジェンダー平等の時代なんだから、男女を区別するのはおかしい」との意見もありますが、紅組と白組の対戦がないなら、いっそ番組ごとやめてしまったほうがいい。変に手を加えようとすると、どっちつかずになってしまい、70年以上続いてきた番組の権威を保てなくなるんじゃないかと思うんですよ。

 思い返せば、日本の音楽業界におけるテレビの影響力は非常に大きかったといえます。1970年代に音楽業界の黄金期が訪れたのは、一家に一台テレビがあるのが当たり前になり、歌番組や、オーディション番組が次々と始まったことが大きく関係しているでしょう。なかでも、1971年に放送を開始した日本テレビの『スター誕生!』からは、12年の間に、92人がデビュー。日本レコード大賞などの歌謡賞の受賞者の3分の1がこの番組の出身者だった時代もあったほどです。

 当時、日本テレビの社屋には『スター誕生!』の応募ハガキを管理する専用部屋がありました。僕も見に行ったことがありますが、天井までうずたかくハガキが積まれていてね。一人で100通出す人もいたそうで、総数は常に40万枚もあったそうです。それを若手のディレクターとアルバイトが目を通して振り分ける。すべてを公平に見ることなど不可能なので、スターになれるかどうかは運次第でもあったわけです。

都倉俊一氏 ©文藝春秋

不思議な引力をもつ百恵

 この番組を代表する存在といえるのが、森昌子、桜田淳子、山口百恵の「花の中三トリオ」でしょう。僕は1973年に百恵がオーディションに登場した時の審査を担当しているんです。ショートヘアにジーパンをはいた化粧っ気のない子でね。ひと言でいえば「おとなしくて地味な子」という印象でした。その前年に番組に出演していた桜田淳子のような飛び抜けた明るさや華やかさがあったわけでもなく、森昌子のような抜群の歌唱力があったわけでもない。でも、百恵には不思議な引力のようなものがありました。饒舌に話すわけでもないのに、別れた後に余韻を残すような、どこか気になる子だったんです。

 ただ、いわゆる王道アイドルではなかった分、デビュー直後は試行錯誤の時期が続きました。僕もデビュー曲の『としごろ』から手掛けていますが、従来のアイドルと同じような売り出し方では、何かが足りなかった。プロデューサーの酒井政利さんや作詞家の千家和也さんと共に「この子を何とかしたい」という思いを抱いていたものの、どうすればいいのかが分からなかったんです。

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source : 文藝春秋 2023年3月号

genre : エンタメ 芸能 音楽