「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分である」
岸田文雄首相は、先月訪欧した際の日英首脳会談でこのように述べた。ウクライナ戦争開始後、首相はこれまでも「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」との言い方で、この2つの地域の戦略的連関を表現してきたが、その意識がさらに痛切になっている。
ロシアが欧州で行っている力による一方的な現状変更を認めると、中国が東アジアの海洋で進めている力による勢力圏拡大を認めることになる。中ロいずれも独裁的な専制政治体制であり、民主主義国に対する政治的影響力の浸透を図っている。しかも両国はウクライナ戦争で反西側共闘姿勢を強め、中ロブロックを形成しつつある。
この中ロのユーラシア専制枢軸に対する日本と欧州による安全保障における協力が深まりつつある。今回の首相のフランス、イタリア、英国の3カ国訪問はそれを映し出している。
日英首脳会談では、RAA(円滑化協定)を締結した。自衛隊と英軍が相互に相手国を訪問し、共同で演習や活動をする際の隊員の出入国手続きの簡略化や事件や事故が起きた際の法的地位を定めたものだ。
スナク英国首相は日本経済新聞への寄稿(1月12日)の中で「中国が国家権力のあらゆる手段を使い国際的影響力を競う中で経済的な安全を守るため、共に立ち向かっていく」と、日英協力への意気込みを語った。
英政府は、「過去一世紀以上で日英間の最も重要な防衛協定である」とその意義を謳っている。1902年にロシアの脅威に対して共同で防衛することを企図し、締結した日英同盟(防衛協定は1905年)は1921年のワシントン会議で成立した日、英、米、仏の四カ国条約によって「発展的に解消」させられた。日本をライバル視し始めた米国の圧力に屈した結果でもあったが、これは、戦前の日本外交の最大の失敗の一つだった。
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source : 文藝春秋 2023年3月号