中国共産党指導部はついにゼロ・コロナ政策を放棄した。昨春の上海市のロックダウンに象徴される中国の徹底検査、感染者隔離、感染者発生地域の封鎖(ロックダウン)の三位一体の対コロナ戦争はオミクロン株に負けた。ゼロ・コロナ敗戦である。
ゼロ・コロナ方針転換後、感染者数は激減している。PCR検査を激減させているからである。しかし、検査が減れば感染の発見も追跡も難しくなり、状況把握が難しくなる。その結果、感染が拡大する。集中治療施設(ICU)がパンクし、医療崩壊が起こる。これまで中国政府は、中国の感染による死者をこの3年間で5000人ちょっとに抑え込み、米国の110万人に比べ大勝利であると宣伝してきたが、欧米の金融機関系の調査会社は、感染爆発が起これば死者の数は70万人〜160万人に達すると予測している。その時は、中国全土の同時多発感染爆発となるだろうから、2020年春の武漢市のロックダウン作戦の時のように各地から医師と看護師を大動員することはできない。この時、武漢に送り込まれた医療従事者は4万2600人に上った。
最大の問題は、共産党指導部がゼロ・コロナ路線の代案を用意して来なかったことにある。この路線貫徹による「成功物語」は中国の政治システムの優越性の表れであり、習近平主席の指導力の賜物であると謳いあげたため、プランBがつくれなかった。党中央は出口戦略のための明確な計画を持たないまま、方向転換したと見てよい。
ただ、どの方向に向かうかは曖昧である。
このような時、中央政府は地方政府と現場に難しい判断を押し付け、責任を転嫁させようとする。地方としては「上に政策あれば下に対策あり」で臨むことになる。今回のように上に政策がない場合、下は権益と保身で動く。
2020年3月下旬、こんな事件があった。
湖北省・武漢市のロックダウンが一部緩和され、湖北省の住民が揚子江を挟む九江長江大橋を渡って江西省に行こうとしたところ、橋の検問所に駐在する江西省警察に阻まれ、群衆が警察官とにらみ合った。そこへ湖北省警察官が湖北省住民の後押しをして介入したため、10人以上の江西省警察官が湖北省警察官に殴り込みをかけ、大騒動となった。中央が住民の省境を越える移動について明確な方針と指示を出さなかったことが騒動の背景にあった。
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source : 文藝春秋 2023年2月号