教育の“逆作用”

オヤジとおふくろ

杉村 太蔵 元衆議院議員・実業家
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著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、杉村太蔵さん(元衆議院議員・実業家)です。

 父のことを説明するなら、とにかく「厳しい」の一言しか浮かんでこない。「時間はきちんと守れ」「靴を脱いだら整理しろ」……幼い頃からあらゆることで怒鳴られっぱなしだった。父が仕事から帰ってくる時には、家族全員が玄関で整列して出迎えなければならない、というルールもあった。万が一間に合わないと、こっぴどく叱られる。我が家には絶対君主制が敷かれていたのだ。

杉村太蔵氏 ©文藝春秋

 うちは三人兄弟だったが、長男の私はとりわけ厳しく育てられた。小学三年生になる頃には、学校に行く前の時間、父による座学がおこなわれるようになった。松下幸之助の偉大なエピソードを、正座した状態で聞かされるのだが、小学生なので経営の話など全く理解できない。「お前はどう思う?」と聞かれても、上手く答えることが出来なかった。

 スパルタ教育はそれだけでは終わらず、そのうちテニスの特訓も始まることに。父自身、地元・北海道の大会で優勝し、全国大会に出場したことがあるほどの腕前。毎日朝の五時半に起きて、六時から七時まで一時間みっちりと練習する。冬場は雪で練習が出来なくなるので、代わりに朝勉をさせられた。

 そんな父は歯医者だった。私の実家は北海道旭川市で、祖父の代から歯科医院を営んでいた。父は祖父の開業した医院を継いでいたため、長男の私にも同じ道を歩んでほしかったのだろう。事あるごとに、こう言い聞かされて育った。

「とにかく資格をとれ、資格をとることは人生にとって非常に重要なんだ」

 小学校のある時、父に誘われて歯科医院に見学に行くことに。仕事現場を見せることで、歯医者に進む道を意識させようとしたのだろう。ところが、初めて父の仕事を見た私は驚愕した。「よく朝から晩まで、人の口の中を覗いていられるな!」と。あの瞬間、自分は絶対に歯医者にはならないと固く誓った。もっと広い世界で仕事がしたい、資格をとらずに立派になってやろうと決意したのだ。こうして父の教育が“逆作用”した結果、今の私の人生があるのだと思う。

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source : 文藝春秋 2023年3月号

genre : ライフ ライフスタイル