新年幕開けの初場所で、大関貴景勝が3度目の優勝を果たした。横綱照ノ富士が休場し、正代や御嶽海が大関から陥落した今、ひとり大関として重責を果たし、土俵を締めたのが貴景勝だった。
同学年でもあり「青森の打越(阿武咲)、兵庫の佐藤(貴景勝)」と称され、小学生時代からのよきライバルである阿武咲もまた、目を見張る活躍を見せた。
ひとたび土俵を降りれば大親友でもあるふたり。身長175センチの貴景勝と、178センチの阿武咲は、現在の角界では小兵の部類だ。かつては巡業先で明け荷を並べ、まるで小熊のようにじゃれ合うふたりの姿に目を細めたものだった。
この初場所での阿武咲は、前頭八枚目ながら14日目まで優勝争いに絡む。13日目に組まれた貴景勝との対決では、互いに突き押しで張り手も見舞い、意地をかけた“バチバチ”の激しい相撲を見せた。鼻から流血した貴景勝に軍配が上がったが、「ふたりとも突き押し相撲なんだけど、手脚の長い阿炎などとは違い、飛んだり跳ねたりできないんだよね。体が小さいぶん誤魔化しが利かないんだよ。一所懸命ないい相撲だったな」と元横綱武蔵丸の武蔵川親方も、この一番を絶賛するほどだ。
ライバルに敗れたこの日から3連敗。千秋楽の豊昇龍戦では、一度は軍配が上がったものの、マゲをつかんでの反則負けを喫してしまう。「勝てば敢闘賞受賞」 の大事な一番を逃し、悔しさを隠しきれない表情で花道を下がって来たが、「はたきに行った自分がダメでした。攻めきれなかった自分が悪い」と反省する。今場所を振り返り、「久しぶりに緊張したり普段は味わえないような感情になりましたし、良い経験でした。またしっかり前を向いて頑張ります」と力強く言い切った。
同じ二所ノ関一門の関取ゆえに、支度部屋で黒の紋付袴に着替え、貴景勝が表彰式を終えるのを、しばし待つ。賜杯を抱いたライバルを称えて万歳し、記念写真に収まるのだが、阿武咲は笑顔を見せずに慶事を祝っていた。
番付に差はついているものの、今場所の経験は糧となり、自信にも繋がったはずだ。「次こそ俺だ!」と、その“じょっぱり魂”に静かに火がついたようだ。
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source : 文藝春秋 2023年3月号