綱取り目指す「佐藤クン」の進化

大相撲新風録 第26回

エンタメ スポーツ
貴景勝(たかけいしょう、兵庫県芦屋市出身、常盤山部屋、26歳) ©時事通信社

 15日間のうち5度も流血するほどに気迫のこもった相撲で、13場所ぶり3度目の賜杯を胸に抱いた貴景勝。相撲の名門・埼玉栄高校の後輩でもある気鋭の琴勝峰を下し、大関の貫禄で優勝をもぎ取った初場所だった。

「結婚してから初めての優勝なので、うれしいです。誰でも大関になれるわけではないですから、重圧を感謝に変えて頑張りました」

 横綱照ノ富士が休場し、御嶽海や正代が大関陥落したなか、ひとり大関としての責任をしっかりと果たしたのだった。

 土俵上での真摯な態度と佇まいは、まるで古武士のようなのだが、ひとたび土俵を降りるとおしゃべり好きの好青年でもある。小学生時代、栃ノ心や栃煌山(現清見潟親方)のいた春日野部屋に合宿に行った際のこと。稽古後に昼寝をする関取たちの横に張り付き、坊主頭の佐藤少年は、ひたすら話し掛け続けたという。「お前も、もう寝ろよ〜」と笑いながら呆れられたというエピソードがある。

 母親のような年齢の筆者にも、いつも人懐こい笑顔で挨拶してくれるのが貴景勝だ。「大関」と呼ばなければならないところ、ついつい「おぉ、佐藤クン!」と話し掛けてしまうほど。「元気ですか、佐藤サン!」とこれまたフランクに、子どものような笑みをたたえて返してくれるのだった。

 そんな彼も今では一児の父となった。夫人は元大関・故北天佑の娘さんだ。テレビ番組での共演で知り合い、持ち前の人懐こい笑顔を武器に、臆することなく話し掛け“大金星”を手に入れたのは想像に難くない。

 来たる三月春場所は、綱取りの懸かる正念場となる。175センチ165キロの丸い体躯は、けして大きくはなく、手脚の長い器用なタイプでもない。過去の例を見ても、突き押し相撲一本やりでの横綱昇進は難しいと言われる相撲界。

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source : 文藝春秋 2023年4月号

genre : エンタメ スポーツ