「総理大臣も国会議員も辞める」答弁の裏には10年前の成功体験があった
今年2月に発売された『安倍晋三 回顧録』が話題になっている。安倍が、幹事長就任から第二次政権退陣までの約20年間を網羅的に語っているため、私自身、読みながら過去に取材した場面がいくつも脳裏に蘇った。
中でも印象的だったのは安倍の声を傍で聴いているかのように、喋り口調が生々しく収録されていることだ。小池百合子を「彼女は、自分がジョーカーだということを認識している」と評し、トランプについて「根がビジネスマンですから、お金がかかることには慎重でした」などと発言する箇所は、いかにも安倍らしい物言いだと思った。取材や会食の場を盛り上げるために安倍はよく冗談を言い、サービストークを披露した。今回の回顧録にもそうした発言が随所にあり、懐かしさを感じた。
だが、一方で物議を醸した箇所も見られた。とりわけ「安倍政権を倒そうとした財務省との暗闘」と題した項目での〈私は密かに疑っているのですが、森友学園の国有地売却問題は、私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない〉という発言には批判が巻き起こった。世間では「財務省への責任転嫁だ」「権力者の妄想だ」などの声も上がっている。
2017年に起きた、大阪市の森友学園への国有地売却問題に端を発する「森友問題」は、同年の獣医学部新設を巡る「加計学園問題」と共に、「モリカケ」問題として安倍政権の最大の“スキャンダル”とされた。
とくに森友問題では国有地の払い下げをめぐる約8億円もの大幅な値引き額や、学園理事長の籠池泰典の特異な言動がマスコミの注目を集めた。また、財務省の公文書改竄や、近畿財務局職員の自殺など、深刻な事案が次々と発覚したことで、今も記憶している人は多いだろう。
私自身も安倍政権の危機と捉えていたが、よく指摘される問題点とは微妙に異なった見方をしている。以下に綴っていくが、それは20年以上、安倍を直接取材してきたからこそ抱いた考えだったと言えよう。
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source : 文藝春秋 2023年5月号