2011年に亡くなった師匠の立川談志は、落語というものの寿命を50年、いや、100年延ばした人だと思っています。その50年あまりの芸歴とはどんなものか、それがわかる2冊の本があります。
1冊目は、師匠が最初に出した『現代落語論』(三一書房)です。大学の落語研究会に入った時、先輩から「これだけは」と薦められた。その後、高座にも行きますが、師匠との出会いといえば、この本です。
本が出たのは1965年、談志を襲名したばかりで人気絶頂だったのに、師匠は落語の将来を悲観していました。このままでは、伝統芸能の一つとして位の高いものにはなるかもしれないが、庶民と一緒に歩むものではなくなってしまう、と。
さらに師匠は、型や噺の上手さより大切なものは? と考えを深め、「落語とは人間の業(ごう)の肯定である」と気がついた。この前提にあるのは、人間は「常識が嫌」なんだ、ということです。常識からすればお酒で酔っ払い過ぎてはいけないし、嘘をついてはいけないが、実際はそうはいかない。人は嘘をつくもの、飲み過ぎるもので、落語はそれを肯定してやる営みなのだ、と説くのです。
こうした落語論の集大成となったのが2冊目、晩年の講義集『落語とは、俺である。』(竹書房)です。不遜に響きますが、師匠の言葉にはいつも裏に深い意味があります。
ライバルの古今亭志ん朝師匠が亡くなった時もそう。「いい時に死んだよ」という発言が切り取られて物議を醸しましたが、華麗なリズムと調子と声とが揃った最高の時に逝ったことで老醜を晒さずに済んだ、という落語家の幸福を語った文脈でした。
「落語とは、俺である。」という言葉は、「寿限無」の噺を諳んじてしゃべることが落語ではない、寿限無を通して落語家は、自分自身が伝えたいものは何かを追求すべきなんだ、という問いかけとして書かれています。
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