小さい頃の私はほとんど読書をしない子どもでした。父や兄は大の読書好きでしたが、私は本を開くと頭が痛くなって、学校が終わるとすぐに外に遊びに出てしまう。父には「漫画でいいから読みなさい」と言われていたほどでした。
中学校に入ると数学の面白さに魅了されるようになり、その頃に読んだのが矢野健太郎の『数学をきずいた人々』(講談社現代新書)です。なぜこの本を手に取ったのかは忘れてしまいましたが、ピタゴラスやニュートンなど著名な数学者の伝記と、彼らの理論が記されたこの本を読んで、ますます数学の魅力に取りつかれたことをよく覚えています。理論だけでなく、歴史上の数学者たちの私生活や逸話が多く書かれているので、彼らに親しみを抱き、私も数学者になりたいという想いを強くしました。
実際、大学では数学科に進み、整数論を専攻しました。デカルトの『方法序説』(岩波文庫)や高木貞治の『解析概論』(岩波書店)など、偉大な数学者たちの本をとにかく読んでいましたね。この頃には読書が大好きになっていて、数学書と並行しながら山本周五郎や安部公房といった文学作品も読んでいました。いつもカバンには数冊の本を入れていて、実は2度ほど、自分で小説を書いてみたこともあります。作品の出来はあまり聞かないでいただけると助かります(笑)。
大学院で修士論文の目途が立った頃、進路の悩みに直面しました。私が学んだ整数論は、残念ながらすぐには社会の役に立たない。むしろ役に立たないことが美しいとされる世界です。このまま本格的に数学者の道に進むか、社会にでるか悩んでいた時に兄の本棚で見つけたのが、城山三郎の『男子の本懐』(新潮文庫)でした。
内閣総理大臣の浜口雄幸と大蔵大臣の井上準之助が「金解禁」を遂行する物語で、2人は経済を立て直し、国民を救うために政策に取り組む。あらゆる反対を押し切って社会のために命をかける男たちの物語ですが、その姿にはグッとくるものがありました。東京駅で銃撃され倒れた浜口首相が「男子の本懐だ」と口にするシーンがありますが、これを読んで、自分も何かを成し遂げなくては、と考えるようになりました。元々金融の世界には興味がありましたが、この業界に進む私の背中を押してくれた1冊です。
2年前当社のパーパス(存在意義)を改めて設定して発表した時に読み返したのも、『男子の本懐』でした。読むと自然と、20代の頃に抱いていた「この会社に入って社会に貢献したい、世の中を良くしたい」という初心に帰ることができる。会社としてのパーパスを考える前に、自分のパーパスを改めて定義する手がかりになりました。
入社後に読んだジム・コリンズ
この会社に入り、ビジネスマンとしての人生を変えた本は、ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(日経BP)です。「Good Company」が「Great Company」に飛躍するには何が大切かといったことが書かれていて、マネジメントの在り方や、謙虚でいることの大切さを考えさせられました。
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