映画監督の降旗康男(ふるはたやすお)は、苦難に満ちた人生を誠実に生きる人間に、優しい眼差しを投げかける作品を作り続けた。
撮影中はほとんど何も言わなかった。しばしばタッグを組んだキャメラマン木村大作が大声で指図するので、俳優たちが監督とまちがえたという伝説がある。しかし、俳優を見る目はするどく、評する言葉は的確だった。
1934(昭和9)年、長野県の浅間温泉にある旅館業の家に生まれる。祖父は信濃日報の社長。父は同社副社長をへて政治家に転じ、戦後は衆院議員に当選して逓信大臣を務めている。
名門の松本深志高校を卒業して東京大学文学部に入学、フランス文学を専攻して大学院も考えたが「研究は自分の肌に合わない」と悟った。就職難のなか、給料のよかった東映の入社試験を受け、親戚のコネを使って合格する。引け目を感じたが、合格者の3人はみなコネを使ったと分かり「ほっとした」という。
美空ひばり主演の『青い海原』で助監督をつとめ、66年公開の緑魔子主演『非行少女ヨーコ』で監督デビューを果たす。2本目の監督作品が同年の『地獄の掟に明日はない』だったが、このとき高倉健が原爆症に苦しむヤクザを演じて注目された。
高倉健との作品は多く、最後の『あなたへ』を含めて20作にのぼる。高倉については繰り返し語った。
「どんな役を演じても人物の中に高倉健がいました。脚本を読んで、その人物が自分のものにならなければ出演はしないと決めたときから、高倉健という俳優が生まれたのだと思います」
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source : 文藝春秋 2019年8月号