ローラン・ビネ著、橘明美訳「文明交錯」

文藝春秋BOOK倶楽部

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長特命補佐
エンタメ 読書

桁外れに面白い歴史改変小説

 途方もない生きた小説だ。さすがローラン・ビネ、『HHhH―プラハ、1942年』の著者が贈る怪異譚だ。スケールがデカすぎで半端ない。なにしろ、スペインがインカ帝国を、ではなく、インカ帝国がスペインを征服する。インカ帝国を滅ぼした鉄、銃、馬、そして病原菌に対する免疫をインカの人々が持っていたらという設定である。

 本書は「第一部エイリークの娘フレイディースのサガ」「第二部コロンブスの日誌(断片)」「第三部アタワルパ年代記」「第四部セルバンテスの冒険」の四部から成る。いずれも実在の人物であるだけに歴史改変の部分の描写が気になる。

ローラン・ビネ著、橘明美訳「文明交錯」(東京創元社)3300円(税込)

 第一部は、探検家・エイリークの娘フレイディースのサガ。フレイディースが望んだのは、さらに南へ行くことだけであり、キューバ、チチェン・イッツァ(夫はここで殺された)、パナマを経てランバイエケ(ペルーの北海岸)に辿り着き長い旅がつづく。フレイディースはランバイエケの女王になり、子孫は栄えた。

 第二部。1492年10月12日、コロンブスは新大陸の小さい島に着く。コロンブスはシパンゴを探して、クーバ島に向かうと、すばらしい港を見つけ、一人悦に入る。しかし舞台は暗転する。シパンゴの王、カオナボに敗北した惨めなキリスト教徒は捕虜になり、わずか13人となってしまう。そしてコロンブスは死を迎える。

 第三部では、インカ最後の王、アタワルパが内戦に敗れ、新開地を求めてリスボンに行き着く。ポルトガルの内陸を進んで行くアタワルパが本気で怒ったのは、アタワルパ自身が異端とみなされ切羽詰まった時である。トレドの町は殺戮の場と化す。

 アタワルパは愛人ヒゲナモタに極秘の任務を与えて新大陸へ送りだす。カディスで船を待つが、船が現れたとき、アタワルパは勝利を確信する。両大陸を船が結んだのである。

 アタワルパの望みはスペイン統治で、新大陸の人々は諸手を挙げて賛成した。こうしてアタワルパは豊富な金と銀でセビーリャを征服する。そしてフェリペが死んだとき、アタワルパがスペイン王に就くことに誰も異論を唱えることはなかった。

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source : 文藝春秋 2023年6月号

genre : エンタメ 読書