考え方しだいで容易にできる「おもてなし」

日本人へ 第156回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会

 日本に来る観光客も、個人で来たり、家族で来たり、友達と来たりする人たちが増えて来ています。この人たちは、知的には上流でも経済的には中流階級ですから、一泊五万円以上もするホテルは敬遠するでしょう。まずもって、異国での滞在は一泊では不充分で数日は必要だと思っている。お金はそれなりに持ってはいても、賢く使いたがるのがこの人たちなのです。

 ただし、爆買いを楽しむ団体客とちがうのは、日本に対する知的好奇心でしょう。その好奇心に応えてあげるのが、最上のおもてなしだと思う。それで今回は、この人たちが絶対に喜ぶであろうことを二つ提案したいと思います。

 まず温泉。

 日本の温泉は文句なしに素晴らしい。おそらく外国人も、同感するでしょう。ならば、到着したお客を浴場に案内しただけでよいかとなると、西欧の人の場合はそうではないんですね。と言って、部屋ごとに温泉が引いてある高級旅館よりも、やはり温泉の妙味とは、大きな浴場でみんなで入ることにある。なのにアメリカ人もヨーロッパ人も、裸になって温泉に入るのに、抵抗を感じる人が多い。古代のギリシャやローマでは裸体を人前にさらして平然としていたのに、中世以降、その文化がなくなってしまったからです。

 キリスト教は、肉体を人前にさらすのを極度に嫌悪する宗教でした。その西欧に裸体讃美が復興するのは実に一千年が過ぎたルネサンス時代になってからですが、後遺症はまだ残っている。

 一昔前の英国映画に『眺めのいい部屋』というのがあったけれど、あれはイタリアを訪れて裸体彫刻を見て頭がクラクラしちゃった娘の話です。日本に来る観光客も、これに近い人たちなんですよ。

 イタリアにも温泉があります。イタリアは、日本と同じ火山国ですから温泉はいっぱいあるけれど、その素晴らしい大浴場へは、全員が水着で入らなくてはなりません。私は水着を着て温泉につかるのは、欧州に暮らして半世紀たってもどうも好きになれない。だから彼らが日本に来ても、人前で裸になるくらいなら温泉などあきらめてしまいかねないのです。その彼らに日本の素晴らしい温泉、大浴場、山間の岩場の温泉を楽しんでもらうために、私はこうしたらどうかと思うんですね。

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source : 文藝春秋 2016年5月号

genre : ニュース 社会