月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。参院選を終えた安倍に立ちはだかる三つの変数とは
東京都知事選最後の平日となった7月29日。鳥越俊太郎、増田寛也、小池百合子の主要3候補は2日後に迫った審判の日を前に声を振り絞った。
鳥越は共産党参院議員・吉良佳子、社民党副党首・福島瑞穂ら女性議員と渋谷で街頭演説。週刊誌に女性問題が報じられたことを受けての演出だった。増田はいつものように自民、公明両党の議員を従えて江東区など下町を遊説。終盤になって鉢巻きの色を緑から赤に変え、「あと一押しです」と絶叫調で訴えた。だが、主役はやはり小池だった。繁華街で演説する度にイメージカラーの「緑」を身にまとう何百人もの人が集まってくる。組織の支援を得ず「たった1人の戦い」を強調するのは変わらないが、日に日に増える聴衆に感極まり涙を見せるシーンもあった。3人を中心とする選挙戦は都民だけでなく日本中の話題をさらった。テレビの情報番組は軒並み高視聴率を記録。3人が生出演した19日のフジテレビ「バイキング」はリニューアル後最高の視聴率5.3%を記録した。
小池劇場の開幕は、参院選投開票日の10日夜のことだった。東京・永田町の自民党本部は、喧噪の中にあった。総裁室、幹事長室などが並ぶ4階には特設の参院選開票センターが設けられ、党幹部が陣取る。一方、1階と8階では都知事選に向けた自民党都連の会議が、断続的に開かれた。報道各社は参院選と都知事選の双方を取材するため、政治部、社会部の記者を自民党本部に集結させていたのだ。
二階の絶妙なカードさばき
参院選の投票が締め切られた午後8時、「事件」は起きた。都知事選に出馬表明している小池が、提出していた推薦願を取り下げるために、アポ無しで党本部に現れたのだ。わざわざマスコミの集まる時間と場所に現れ、もみくちゃになりながら、笑顔でコメントする。典型的な劇場型の手法だった。小池の乱入により、開票が始まる前に世間の関心が参院選から都知事選に移ってしまった印象を与えた。
小池は2005年9月の衆院選、いわゆる郵政選挙で当時の首相・小泉純一郎に呼応し、郵政民営化反対の候補が立つ東京10区に刺客候補としてくら替え出馬。小泉劇場の主役の1人を演じた。郵政選挙がなければ東京を選挙区にすることはなく、都知事選に出馬することもなかっただろう。
実は小池は、前都知事・舛添要一が辞任不可避の状況になった6月中旬から都知事選出馬をうかがっていた。その頃、小池は増田に電話をかけている。増田の腹を探るためだ。当時、まだ出馬する気がなかった増田は、小池からの電話で二つのことを知る。一つは小池が意欲満々であること。そしてもう一つは、自分が候補者として浮上する可能性があることだ。
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source : 文藝春秋 2016年9月号