「小品で際立ついぶし銀」アレック・ギネス

スターは楽し 第205回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画

 アレック・ギネスの名を聞いて、すぐに思い出す映画の役はなんだろうか。

『戦場にかける橋』(1957)のニコルソン大佐と答えるのは、かなりの高齢者かもしれない。もう少し若い高齢者だと、『アラビアのロレンス』(1962)のファイサル王子を選ぶはずだ。高齢者手前の人々ならば、『スター・ウォーズ』(1977年の第一作)に出てくるオビ゠ワン・ケノビの名を挙げるのだろうか。

アレック・ギネス ©Photo12 via AFP

 どれも記憶に残る役だ。「息の長い名優」アレック・ギネスの価値を裏打ちする役……とも言いたくなるが、ギネス自身は、オビ゠ワン・ケノビの役を毛嫌いしていた。撮影現場では若い共演者たちを励ましつづけたそうだが、後年のインタヴューでは「すべて紋切型の台詞を繰り返すのが、なんとも苦痛だった」と述懐している。ただ、ギャラが歩合制だったため、潤沢な年金にはなったらしい。

 閑話休題。ここで紹介しておきたいのは、「大作で存在感を示す大御所」アレック・ギネスではなく、「職人仕事の小品で、舌を巻くような技芸を見せる」もうひとりのアレック・ギネスだ。

 と書けば、すぐにピンと来る映画好きは少なくないのではないか。そう、私の念頭にあるのは、1940年代末から50年代にかけて、矢継ぎ早に送り出された〈イーリング・コメディ〉の傑作群だ。

 読んで字のごとく、イーリング・コメディとは、英国の〈イーリング・スタジオ〉が製作したコメディの数々である。短命なスタジオだったが、作品の質は高い。『カインド・ハート』(1949)、『ラベンダー・ヒル・モブ』(1951)、『白衣の男』(1951)、『マダムと泥棒』(1955)。どの映画にも「スモール・イズ・ビューティフル」の意地が貫かれている。日本で劇場公開されたのは、『マダムと泥棒』だけだった。

 1914年ロンドン生まれのアレック・ギネスは、いま挙げた4作品のすべてに出演している。最初に観客の度胆を抜いたのは、ひとり8役を演じた『カインド・ハート』だろう。

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source : 文藝春秋 2023年7月号

genre : エンタメ 映画