アイデンティティー選択を迫る戦争『問題はロシアより、むしろアメリカだ』エマニュエル・トッド、池上 彰

ベストセラーで読む日本の近現代史 第120回

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官
ニュース 社会 読書

 6月に始まったウクライナ軍のロシア軍に対する反転攻勢が、ウクライナや西側連合の思惑通りには進んでいないようだ。

〈米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は一五日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍が反転攻勢を始めた最初の二週間で兵器の二割を失ったと報じた。ロシアが敷設した地雷がウクライナ軍の損失を拡大させているとの指摘も出る。ウクライナ側は戦術を変えて損失を減らしているという。/ロシア側の強固な防御によって、ウクライナの進攻に影響が出たもようだ。同紙によると、損失には西側諸国がウクライナに提供した戦車や装甲輸送車なども含まれる。/米政府当局者はウクライナ軍が一時的に進軍を停止していたことを認めた。そのうえで、米国がウクライナへの供与を決めたクラスター(集束)弾が投入されればウクライナ軍の進軍ペースがあがる可能性があるとの見方を示した〉(日本経済新聞電子版、7月16日)

 ロシアのプーチン大統領は、7月21日の安全保障会議でウクライナの反転攻勢についてこう述べた。

〈今日、キエフ政権の西側後見人たちが、ウクライナ当局が数カ月前から声高に喧伝してきた、いわゆる反転攻勢作戦の結果に失望しているのは明らかだ。(略)キエフ政権に「投入」された莫大な資源も、戦車、大砲、装甲車、ミサイルといった西側の兵器の供給も、わが軍の戦線を突破しようと最も積極的な方法で使用されている何千人もの外国人傭兵や顧問の派遣も、何の役にも立っていない〉(ロシア大統領府HP、7月21日、以下の引用を含め筆者が訳した)

 また、西側製の兵器がソ連製(ロシア製ではなく1991年のソ連崩壊以前)の兵器よりも劣っている場合があるとプーチン氏は指摘した。

〈同時に、特別軍事作戦の指揮官はプロフェッショナルに行動している。わが軍の兵士と将校、部隊と軍団は、祖国に対する義務を勇敢に、堅実に、英雄的に果たしている。同時に、全世界は、称賛されている西側の、不死身であるはずの装備が炎上しており、その戦術的・技術的データの点で、ソ連製の一部の兵器に劣ることさえしばしばあることを目の当たりにしている〉(同上)

 こういう表現でロシアの国防産業関係者の士気を高めている。

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source : 文藝春秋 2023年9月号

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