繰り返し見ても眼が覚めるのだから、初見の人はどれほど仰天したことだろうか。終戦後まもなく映画館のスクリーンで目撃したとなると、衝撃の指数はさらに跳ね上がったにちがいない。
お察しと思うが、私は『ギルダ』(1946)の有名なシーンを念頭に置いている。肩紐のない黒いドレスを身体に貼りつけ、肘まで隠れる長い手袋を嵌めたリタ・ヘイワースが、〈プット・ザ・ブレイム・オン・メイム〉を歌いながら、ストリップティーズを思わせる仕草で手袋を脱ぎ捨てるあの場面だ。
あれは、セックスシンボルなどという常套句が間抜けに聞こえるほど鮮烈な映像だった。ヘイワースが演じるギルダは、カジノのオーナーと電撃結婚し、ブエノスアイレスへやってきた。そのカジノで働いているのが、かつてギルダと因縁のあったジョニー(グレン・フォード)というギャンブラーだ。ふたりはいまも愛憎の熾火(おきび)を消せないが、ジョニーとオーナーも屈折した感情でつながっている。
ありきたりな設定だ。ただ、ヘイワースの肉体が絡んでくると、味がじわりと濃くなる。オーナーもジョニーも、ギルダの前では言動がぎごちない。口数が減って脚を組み、作り笑いを浮かべる。
一方のギルダは、艶然と平然の間を気負うことなく揺れ動いている。才気や洞察力はさほど感じさせないが、立っているだけで色気がこぼれ、身じろぎするだけであだっぽい。華麗な容姿の奥に、底の見えない洞窟のような暗がりも潜む。
リタ・ヘイワースは、1918年にブルックリンで生まれた。本名は、マルガリータ・カルメン・カンシーノ。両親はともにダンサーで、父親はスペイン系のロマ。母親の旧姓がヘイワースだった。
ダンサーの訓練を受け出したのは、わずか3歳半のときだ。父とチームを組んで踊りはじめたのは12歳のとき。居住地のカリフォルニア州では幼すぎて就労許可が出なかったため、国境の南にあるティワナで踊っていた。35年ごろからは、リタ・カンシーノの芸名で映画にもちらほら顔を出す。父親から性的虐待を受けたのも、この時期といわれる。
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source : 文藝春秋 2023年12月号