「『教養』の鉱脈が特殊だ」レア・セドゥ

スターは楽し 第209回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画

 レア・セドゥは「スーパーサブ」ではないだろうか。

 デビューして数年後、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』や『ミッドナイト・イン・パリ』(ともに2011)で強い光を放つ彼女を見て、私はそう思った記憶がある。

レア・セドゥ ©Photofest/アフロ

 サッカー好きには説明の要もないと思うが、スーパーサブとは、単なるサブスティテュート(交代要員)にとどまらず、勝負どころで投入されると眼の覚めるような仕事をやってのけるジョーカー的な選手を指す。近ごろでは、カタール・ワールドカップの三笘薫が好例か。

『プロトコル』のセドゥは、敵役の殺し屋サビーヌに扮していた。開巻早々、サビーヌはブダペストの裏通りで、すれ違いざまにIMFのエージェントを射殺する。そのときの電撃的な動きに、隙がなかった。画面の奥から姿を見せるだけで不穏な気配を感じさせるのはご愛嬌だが、頭と身体の強さが、瞬時に伝わってくる。映画の中盤、ドバイの高層ホテルで繰り広げられた肉弾戦も豪快なアクションだったが、脳裡に焼き付くのはやはり冒頭の場面だ。シーン・スティーラー(場面泥棒)という褒め言葉が、ぴたりと当てはまる。

 一方、『パリ』のセドゥは対照的な役柄だった。蚤の市で働くガブリエルという穏やかなパリ娘の役で、21世紀と1920年代の間で揺れ動くアメリカ人の主人公ギル(オーウェン・ウィルソン)にとっては、守護天使のような存在だ。

 裕福だが俗物の婚約者や、あでやかだが気まぐれな亡霊に振りまわされていたギルが、雨の夜、セーヌにかかる橋上でガブリエルと再会する場面には味があった。ガブリエルの喋る英語が柔らかく、その笑顔がもっと柔らかいためだ。このシーンひとつで、ギルの抱えてきたこわばりや虚勢は一気に氷解する。文字どおり、心を溶かすスマイルだった。

 レア・セドゥは、1985年7月、パリ16区のパッシーに生まれ、6区のサンジェルマン・デプレで育った。祖父がフランスの大手映画製作会社〈パテ〉の会長で、大叔父が〈ゴーモン〉の会長だったことはよく知られている。ただ、デビューに際して家族が便宜を図ったことは一切なかったといわれる。10代の彼女は、アメリカでのサマーキャンプに6年間も通ったり、パリ国立高等音楽院でオペラ歌手の訓練を受けたりしている。

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source : 文藝春秋 2023年11月号

genre : エンタメ 映画