『わが友、シューベルト』堀朋平/アルテスパブリッシング
『シェーンベルク』浅井佑太/音楽之友社
『鍵盤ハーモニカの本』南川朱生/春秋社
「ここは全てのバランスが崩れた恐るべき世界なのです。これから30分、貴方の目は貴方の体を離れて、この不思議な時間の中に入って行くのです」。1966年の特撮テレビドラマ『ウルトラQ』の冒頭でのナレーションのひとつのパターンである。不均衡や不可測性に人の心が蝕まれ、ついには自我が分裂して型崩れを起こすというのは、むろん『ウルトラQ』やヒッチコックの映画の専売特許ではない。近代芸術がアンバランス・ゾーンそのものだ。その先頭には、近代人の不安と最初に向き合ったとも言えるドイツ・ロマン派の人々が立っているだろう。音楽で言えば、そこで突出した存在感を放っているのは、シューベルトだ。代表作が完成せずに投げ出された『未完成交響曲』ということからして十分におかしい。『わが友、シューベルト』はそんな作曲家像に魅入られている。アンバランスな対象を客観的にバランスよく描こうとしない。本そのものが異様なまでの主観性に貫かれ、アンバランス・ゾーンに落ちている。著者がシューベルトのドッペルゲンガー(分身)なのだ。安部公房の『燃えつきた地図』を思い出した。失踪者を追う探偵が失踪する。不思議さの横溢する迷宮的大著。
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source : 文藝春秋 2024年1月号