「性差別」は撲滅すべきだが「性差」は存在する
昨年10月25日、「戸籍上の性別変更」に「生殖能力を失わせる手術」を必要とする要件は「違憲」だ、とする最高裁の決定が下されました。法的議論の詳細は分かりませんが、性別変更のハードルを高くし、個人の自由を制限する障壁はなるべくなくした方がよいと私は考えます。
この数十年で、「性」をめぐる社会環境は大きく変わりました。女性差別は、無意識のうちには残っていても、あからさまな差別は許されなくなりました。同性愛、同性婚、体と心の性の不一致といった問題も取り上げられ、LGBTQという名称で、そのような人々の権利も表立って論じられるようになったのは、社会として「大きな進歩」でしょう。
ただし一部では、「男女に本質的違いはない」「男女の違いはすべて社会的につくられたもの」という主張までなされています。生物学者として、こうした主張には賛同できません。
こう語るのは、総合研究大学院大学元学長の長谷川眞理子氏だ。
#MeToo運動、同性婚、トランスジェンダーなど、「性」や「ジェンダー」が盛んに議論されるなかで、『オスとメス=性の不思議』『オスの戦略 メスの戦略』の著者である長谷川氏は、「鹿もクジャクも、メスの生き方とオスの生き方はまったく違う」「人間だけ性差はない、というのはあり得ない」と主張してきた。「性差別」に反対しながらも、ヒトにも「性差」は存在する、と。
人間にとってそもそも「性」とは何か――その深遠な謎に迫る。
「ヒトの性」をめぐっては2つの極端な主張があります。
一つは、ヒトと動物を表面的に比較して、「ヒトと動物はまったく同じだ」と断定する主張です。ゾウアザラシを例にして「男はマッチョでなければならない」とか「男性は浮気をするのが当たり前」とか「女性は生物学的に子育てするようにできているのだから、社会に出るべきではない」といった議論です。
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