「ええやん、ええやん! ええ思うで。……よう知らんケド」
関西弁で言ったら、だいたいこんな感じなんだろうねと、四元マーケティングデザイン研究所の四元正弘代表(1960年生まれ)は、筆者の取材に語った。LGBTをめぐる昨今の、何がなんだかわけがわからないが、とりあえず新しげで、前向きっぽく見えるほうに進めていかなければならないという雰囲気のことである。
四元氏は大手広告代理店・電通の出身だ。消費の未来研究部長だった2012年、LGBTに関する日本初の本格的調査を主導し、今日に至るムーブメントのキッカケを演出した人物。ライターの千羽ひとみ氏との共著『ダイバーシティとマーケティング――LGBTの事例から理解する新しい企業戦略』が宣伝会議から出版されたのは、2017年のことだった。
社会のありようを根底から揺さぶりつつある司法判断は、そんな「ええやん」の中で言い渡されている。さる10月25日、最高裁大法廷が、戸籍の性別変更を希望する人に生殖能力を失わせる手術を課してきた性同一性障害特例法の規定は、「違憲・無効」だと決定した。手術要件は〈自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由〉に対する制約であり、個人の尊重と幸福追求権を保障する憲法13条に背いているという。
15人の裁判官全員一致の結論だ。特例法はあくまで、自らの性別は生物学的な性別と異なるという確信を、2人以上の医師によって裏付けられている「性同一性障害者」のみを対象としている。とすれば当然、大法廷決定の有効性も限定的であるはずなのだが、その記述は時に広義のいわゆるトランスジェンダー(医師の診断の有無とは関係なく、生まれつきの身体的性別と異なる性自認・ジェンダー表現で生きる人々全体を指す)全体にも及びがちな傾向を否定できない。
いずれにせよ国会は特例法の見直しを迫られる。ちなみに大法廷は、もう一つの争点になっていた外観要件(変更したい性別の性器に似た外観を備えている)については判断を回避。差し戻して高裁段階での再審理を求めた。このため申立人自身の性別変更は認められるまでに至っていない。
◆最高裁判決で報道されなかったこと
今回の決定について、筆者は当初、本連載で特に一回分を割くつもりがなかった。オーソドックスに論ずれば前回の拙稿と重複する部分が大きくなりそうだったのと、決定の意味や弊害等の概略程度は、新聞やテレビの報道だけでも十分に広く伝わるに違いないと考えていたから。
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