〈トホホ系〉とでも呼びたくなる役者の系譜がある。反射的に思い出すのは、『ホリデーロード4000キロ』(1983)のチェヴィ・チェイス、『ベートーベン』(1992)のチャールズ・グローディン、『ジム・キャリーはMr.ダマー』(1994)のジェフ・ダニエルズといった面々だが、スティーヴ・ブシェミやトーマス・ヘイデン・チャーチの名も浮かぶ。ウディ・アレン、ダスティン・ホフマンといった大物の名は、あえて付け加えるまでもないだろう。そんな〈トホホ系〉に、私の脳内では異色ともいうべき役者がひとり混じっている。
コリン・ファレルだ。
ファレルは通常、二枚目スターに分類されている。艶聞が多いせいか、セクシー男優などと呼ばれることもある。事実、彼はハンサムだ。黒い髪と黒い瞳が印象的だし、やや訥々(とつとつ)としたアイルランド訛りの台詞まわしもなかなか色っぽい。
ただ、その下がり眉を見ると、トホホの匂いが一気に噴出する。「窮地に追い込まれた」男の役が妙にぴったりと嵌まる。
ファレルの名を私が初めて覚えたのは、『フォーン・ブース』(2003)という低予算スリラーを見たときだった。
携帯電話が一気に普及し、街中から電話ボックスが激減した21世紀初頭のマンハッタンが舞台の映画だ。軽薄な宣伝マンのスチュに扮したファレルは、53丁目の電話ボックスで二進(にっち)も三進(さっち)も行かぬ羽目に陥る。照準器つきライフルを持った狙撃者の標的にされ、警官隊にも包囲されるのだ。大量の脂汗を流しながら、スチュは窮地を逃れようとする。
1976年、ダブリン郊外で生まれたコリン・ファレルは、この映画が公開されたとき、まだ27歳になっていなかった。芝居ができるな、と私は思った。単なる体当たり的熱演に走るのではなく、緩急のつけ方が自在なのだ。
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