国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【お】「お前」は失礼か?リアルと試合での違い
若い頃、さる仕事に従事していました。その職場で、目上に当たる方から、いつも「飯間」と呼びかけられ、苦痛を感じた経験があります。
「このまま呼び捨てにされながら仕事を続けることは耐えられない」
そう思い詰め、一晩考えて、その方に「どうか『飯間くん』とでも呼んでいただければ」とお願いしました。
さいわい寛容な方だったので、摩擦が起こることもなく、以後は「飯間くん」になりました。あの時の安心感は、いまだに忘れられません。
職場では、呼び方についてお願いもできない雰囲気の所も多いでしょう。ストレスを感じつつ、我慢して働いている人もいるはずです。
あるいは、周囲の男性から「お前」と呼ばれるのに、自分は相手をそう呼べないと、不平等感や苦痛を感じる女性もいるでしょう。私自身の経験から、そんな人々の気持ちも推察できます。
中日ドラゴンズの与田監督が、応援曲「サウスポー」の歌詞にある「お前が打たなきゃ誰が打つ」という部分を問題視したそうです。「『お前』は選手に失礼では」というのです。応援団はこの応援曲を自粛することになりました。
そのニュースを聞いた時、私は若い頃の一件を思い出しました。とはいえ、応援曲の歌詞を批判するのは「筋が違う」とも思いました。
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source : 文藝春秋 2019年9月号