「愛嬌と運動神経」ライアン・ゴズリング

スターは楽し 第216回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画

 ふと思う。2011年とは、「ライアン・ゴズリング元年」ではなかったか。

 コメディ映画の『ラブ・アゲイン』、アクション映画の『ドライヴ』、政治スリラーの『スーパー・チューズデー〜正義を売った日〜』。これら3本が、そろってこの年に公開されているのだ。

 わけても『ドライヴ』が出色だった。デンマーク出身の監督ニコラス・ウィンディング・レフンが、10歳年下のゴズリングと組んで撮った「電圧の高い」佳篇。いま見直しても眼を離せないが、封切で見たときは確実に脈が速くなった。

 ゴズリングが演じる主人公には名前がない。呼び名は、「キッド」や「ドライヴァー」だ。生業は車の修理工だが、昼はハリウッド映画のスタントマン、夜は強盗犯のゲッタウェイ・ドライヴァー(逃がし屋)という顔も持っている。

 強烈だったのは、冒頭約10分間のカーアクション・シーンだ。

「なにがあっても、5分間は外で待つ。5分を過ぎたら、もういないと思え。銃は使わない。車だけだ」

 仕事の掟が画面の外で述べられたあと、ゴズリングは口を利かない。スープアップしたシヴォレー・インパラで夜のロサンジェルスを疾走し、強盗の実行犯を無事に逃がすと、車を駐車場に乗り捨て、自身も街の雑踏に消えていく。

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source : 文藝春秋 2024年6月号

genre : エンタメ 映画