「見せずに見せる『鏡』」ウィノナ・ライダー

第217回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画

 世間にもてはやされていたころは、さほど気になる存在ではなかった。むしろ「時分の花」ではないかと見くびる気持さえあったかもしれない。1990年前後、ウィノナ・ライダーの人気がピークを迎えていたころの話だ。

 べつに嫌っていたわけではない。ただ、「繊細さのかたまり」とか「彼女の波長は時代の波長」などと評されると、首をかしげたくなった。そうだろうか。彼女はなんらかの象徴なのだろうか。

 キュートで、感受性が鋭くて、恋愛体質の印象もある。この三拍子がそろった21世紀の女優といえば、ナタリー・ポートマンやキーラ・ナイトレイらの名が反射的に浮かぶ。彼女たちよりひとまわりほど年上のライダーは、その先駆者と見なされていた。

 しかもライダーの場合は、他の女優たちよりマイナーポエットの資質が豊かだった。このことも、「サブカルチャー好き」の支持に拍車をかけたにちがいない。

ウィノナ・ライダー ©AP/アフロ

 特性が明らかに認められたのは、『ヘザース ベロニカの熱い日』(1989)に主演したときだろう。舞台はオハイオ州のハイスクール。スクールカーストが露骨で、襟の大きなだぶっとした上衣がお洒落と思われていた時代の話だ。

 学校は、性欲をたぎらせるマッチョ男子や、ヘザーと名乗る派手な3人組の女生徒に牛耳られている。ライダーが扮するヴェロニカは、彼女たちの使い走りにされていたが、転校生のJD(クリスチャン・スレイター)と出会って覚醒する。

 JDは、風の又三郎とも悪魔くんともつかぬ存在だ。銃や毒薬の使用を厭わず、俗悪なスクールカーストを次々と破砕していく。反逆者というより、価値紊乱者だ。ヴェロニカはそれに追随するが、やがて不信感も抱きはじめる。JDは、ただのサイコではないのだろうか。

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source : 文藝春秋 2024年7月号

genre : エンタメ 映画