『丹下左膳』シリーズなどで戦前を代表する時代劇スターとなった映画俳優・大河内傳次郎(1898〜1962)。評論家・翻訳家の芝山幹郎氏が語る、その魅力とは。
「夜中、泥棒に味噌汁をやると泣きますよ」――という至言を吐いたのは舞踏家の土方巽だが、それを裏付けるような一場面を、私は映画のなかで見たことがある。
清水宏監督の滋味あふれる秀作『小原庄助さん』(1949〔昭和24〕年)の終盤近くだ。朝湯と朝酒が大好きな豪農の杉本左平太は、人に頼まれたら嫌とは言えない性分が祟り、巨額の借金に苦しめられている。「小原庄助さん」の通り名で呼ばれるゆえんだが、家財道具まで失い、空き家同然となった広い邸で、ある夜ひとり酒を飲んでいるところに、二人組の泥棒が忍び込む。
左平太は、若いころ鍛えた柔術の腕で賊ふたりを難なく投げ飛ばし、おだやかに語りかける。
「おまえたち、せっかく来たんだから上がりなさい。……二、三日早く来れば、狙ったものもあったのに」
左平太は、盃を満たしてやる。泥棒はうなだれるほかない。どうやら、涙も浮かべているようだ。
その飄逸。その恬淡。その温厚。
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source : 文藝春秋 2024年8月号