日本と韓国 「国家の品格」

藤原 正彦 作家・数学者
ニュース 政治 国際 韓国・北朝鮮
かつてなく悪化した日韓関係。憲法に「反日」が明記され、「華夷秩序」で未だに日本を下に見る韓国とは、分かり合えないのか。いや、そんなことはない。日本の「武士道」、韓国の「惻隠の情」という互いの美徳を見直せば、解決への糸口は必ずや見えてくる。

「慇懃なる無視」とは?

 第2次世界大戦中に日本企業の募集や徴用により労働させられた朝鮮半島出身の元労働者による訴訟を巡って、昨年10月、韓国の大法院(最高裁)は日本製鉄(旧・新日鐵住金)に対して原告4人に1人あたり1億ウォン(約1,000万円)を支払うよう命じる判決を下しました。この「徴用工判決」を発端として、そこからわずか1年足らずで、日韓関係はかつてないほど悪化しています。

 8月2日、日本政府は貿易管理上の優遇措置の対象となる「ホワイト国」のリストから韓国を除外することを決定。その対抗措置として韓国政府は、直ちに世界に向けて日本非難を強めると同時に、国内では大々的な反日運動が展開されました。ついに同月23日には、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を通告するという自傷行為的な挙に出ました。狂乱です。

 私自身は、ここ数ヶ月間の日本政府の外交スタンスは評価すべきものと思います。戦後の日本は、先の戦争への反省から、近隣諸国とは波風立てずに友好関係を維持することを最優先にしてきました。謝罪と反省をくり返し表明する一方、止むことのない韓国からの一方的要求に対しては我慢に我慢を重ね、譲歩を続けてきました。韓国は、GHQの植えつけた自虐史観からいつまで経っても抜け出せない日本を見て、この国に対してだけは何を言っても通ると勘違いしたことでしょう。韓国の歴代政権は窮地に立つと、日本に難題をぶつけ国民の喝采を受けることで求心力を取り戻す、というのが常套手段となり、繰り返されてきました。その日本が、この局面になってやっと、“いい子”でいることをやめたのです。

 そもそも、徴用工など両国民間の損害賠償についての請求権については1965年に締結された「日韓請求権協定」において「完全かつ最終的に解決した」と、当時の日本政府・韓国政府ともに確認をしています。韓国はその国家間の約束を破るという、国際法上あってはならない行動をとりました。それに対してしかるべき制裁を科すのは当然の対応です。今回、日本がホワイト国からの除外という形で、「あなた達のやっていることは間違っている」と韓国に突きつけたのは素晴らしい進歩です。ただしこれは韓国を他のアジア諸国と同じにしたというだけで制裁になっていません。甘過ぎます。今回のような国際的に認められた協定へのあからさまな違反には、韓国経済が悲鳴を上げるほど痛めつけないと、国家間の約束を破るということの重大さが分からないからです。これからの我々は韓国に限らずどの国に対しても衝突を恐れず、自国の正当性を世界に主張していくべきと思います。「いずれ誠意が伝わる」「いずれ真実を分かってくれる」は日本人に対しては通じますが、残念ながら世界には通じないからです。

 それと同時に、これからの日本には「benign neglect(ビナイン・ネグレクト)」の姿勢が求められます。日本語に訳すと「慇懃なる無視」という意味です。

 日本が韓国をホワイト国から除外すると決定した8月2日以降、韓国国内では大規模な反日デモや日本製品不買運動がおこなわれています。しかし日本国内に目を転じると、韓国製品の不買運動も反韓デモも全く見られません。この国家としての品格の差が、今、世界から見ると際立っているわけです。残念なことに、インターネット上では一部の日本人が、韓国を誹謗中傷する発言を繰り返しています。これでは韓国と同レベルになります。売り言葉に買い言葉ではなく、「慇懃なる無視」を続けることで、国際社会における日本の立場は、感情的な韓国と好対照で有利に傾いていくはずです。

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憲法に「反日」が明記されている

 韓国・文在寅政権による凄まじい反日攻勢には、もはや狂気さえ感じます。戦後74年の月日が経過しても、なぜここまで日本は恨まれ続けているのか――。

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source : 文藝春秋 2019年10月号

genre : ニュース 政治 国際 韓国・北朝鮮