ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、リード・ヘイスティングス(Wilmot Reed Hastings Jr.、ネットフリックス最高経営責任者)です。
リード・ヘイスティングス
ハリウッドを脅かす「映像の支配者」
「21世紀の映像の支配者」。そう呼んでもいいだろう。
リード・ヘイスティングスが1997年に立ち上げたネットフリックスは米国だけで6,000万人以上の利用者を抱えている。彼らは毎月約13ドルの標準契約料金を支払う。これだけで年間1兆円近くが転がり込んでくる計算だ。
高解像度の動画を膨大に配信しているため、米国ではインターネット通信量の3分の1をネットフリックスが占めるとされる。証券アナリストは、2025年には米国での利用者が9,000万人まで増加する可能性があると試算する。世界の利用者は1億5000万人を超えている。
今年の第91回アカデミー賞では、ネットフリックスが製作した映画「ROMA」(アルフォンソ・キュアロン監督)が3冠に輝いた。これに対して巨匠スティーブン・スピルバーグが「(劇場公開を主な収入源としない)ストリーミング作品はアカデミー賞の対象にすべきではない」とネットフリックスを締め出す提案をした。ネットフリックスは「20世紀の映像の支配者」であるハリウッドの脅威になっている。
2013年に配信を開始した政治ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」を皮切りに独占作品を作り始め、2018年にはオリジナル作品の製作に80億ドル(約9,000億円)を投じた。NHKの年間番組制作費が2600億円、日本の民放が1,000億円以下であることを考えれば、ネットフリックスがいかに莫大な資本を投下しているかが分かる。
わずか20年で「ネットの映像帝国」を築いたヘイスティングスは1960年にボストンで生まれた。父親は地元の弁護士で大学はリベラル・アーツ教育で有名なボウディン大学(メーン州)に進んだ。21歳で海軍のトレーニング・プログラムに参加するが、「自分に軍隊は向かない」と悟り、卒業後は「平和部隊(Peace Corps)」に入り、アフリカのスワジランドで数学を教えた。
帰国したヘイスティングスは、スタンフォード大学の大学院でコンピューター・サイエンスを学び、1988年、IT企業のアダプティブ・テクノロジーに入社する。そして1991年、自らソフトウェアのバグを修正するためのツールを開発して「ピュア・ソフトウェア」を立ち上げる。会社は順調に成長し、1995年8月に上場を果たした。ヘイスティングスはこの会社を1997年に売却し、7億5,000万ドルを手に入れる。これを元手に創業したのがネットフリックスである。
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source : 文藝春秋 2019年10月号