柳家小三治 NYでのこころづかい

矢野 誠一 藝能評論家
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2014年に重要無形文化財保持者――「人間国宝」となった十代目柳家小三治(1939〜2021)。17人抜きで真打昇進など、その実力と人気は凄まじいものだった。生前、柳家小三治と句会を共にした矢野誠一氏が触れた、彼のあたたかい人柄とは。

 まだ柳家さん八だった九代目入船亭扇橋の

「ただメシを喰うだけってのもなんですから、俳句でもしませんか」

 という呼びかけで東京やなぎ句会の発足したのが1969(昭和44)年1月。メンバーは50音順に永六輔、江國滋、大西信行、小沢昭一、桂米朝、永井哲夫、三田純市、柳家さん治(小三治)、柳家さん八、それに私の10名だった。柳家小三治を誘ったのは私で、理由は彼が入らないと自分が一番年下になるからといういささか不遜な考えからだ。爾来毎月1度開かれる句会の席で顔をあわせ、作句そっちのけで莫迦ばなしに興じる仕儀となり、2021年10月小三治が一期(いちご)を終えるまでつづいた。

柳家小三治 Ⓒ文藝春秋

 1986年の夏、機会があって3週間ほどニューヨークにひとりで遊んだ。たまたま同時期にニューヨークで休暇を楽しんでいた柳家小三治と連れだって、ベルモントパークの競馬でフレッド・アステアなる馬に単勝馬券をつっこんで紙屑と化したり、ウエストバリー・ミュージックフェアでペリー・コモを聴いたりした。私が帰国する前日、アルゴンキンホテルで帰り仕度を手伝ってくれた小三治が別れ際に何か言いかけて、

「何を言おうとしたのか忘れちゃった。それじゃ気をつけて」

 と握手をした。

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source : 文藝春秋 2025年1月号

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