あとがき礼賛

野崎 歓 仏文学者
エンタメ 読書

 本屋さんで新刊書を手に取る。表紙を眺め、帯の文句に目をやってから、さてどうします?

 いそいそと最後のほうを開けて、あとがきを読み始めるのでは? そういうひとは多いはず。ぼくもその仲間です。

 あとがきというのはありがたいものだ。とりわけ、翻訳書の場合である。カタカナ名前の著者による、とっつきの悪そうな本だって、あとがきのおかげでぐっと距離が狭まる。

 そこに凝縮された情報を知るだけで得をした気分になる。これは面白そうだと感じたなら、もう読書が始まったようなものだ。立ち読みしたあとがきに促されて、本を手にレジに向かうこともしばしばだ。

 たとえばこのあいだ出会ったのは、クッツェーの『その国の奥で』(くぼたのぞみ訳)という本。南アフリカのノーベル賞作家だとは知っているが、新作だろうか? さっそくあとがきのページを開く。

「べらぼうな妄想小説である。」

 いきなりそんな断言が飛び込んでくる。これは読まずにはいられない。

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source : 文藝春秋 2025年1月号

genre : エンタメ 読書